【あの人ひとりがこの世のすべてだった頃】韓国ドラマでも引用されることの多い詩人ナ・テジュ。日本では3冊目の詩集になる。(ナ・テジュ著/藤田麗子訳/KADOKAWA)
【あの人ひとりがこの世のすべてだった頃】韓国ドラマでも引用されることの多い詩人ナ・テジュ。日本では3冊目の詩集になる。(ナ・テジュ著/藤田麗子訳/KADOKAWA)

 著者のキム・ドンシクは、中学1年で学校をやめ、職を転々としながらソウルの鋳物工場に流れ着いた。工場勤務が10年を経た頃、ネット掲示板<恐怖>に、退屈しのぎで小説を投稿した。それが話題を集め、17年にデビューしたという、異色の経歴の持ち主だ。

「韓国文学の奥深さや、得体の知れなさを改めて実感できると思います」(柏原さん)

■日韓でベストセラーに

 韓国は詩を大事にする国と言われている。その中でも、詩人のナ・テジュは、パク・ボゴム主演のドラマ「ボーイフレンド」で詩集が取り上げられ話題になった。『あの人ひとりがこの世のすべてだった頃』(藤田麗子訳/KADOKAWA)は日本語版の詩集の最新刊になる。

 どの詩も愛する人への愛情を優しくストレートに表現していて、読者は作家が70歳を過ぎていると知ると驚く人も多いようだ。BTSのJ-HOPEがテレビ番組で朗読した「ぼくが君を」も収録されている。

【アーモンド】韓国で100万部を突破したベストセラー小説。日本でも2020年に本屋大賞翻訳小説部門で1位を受賞した。(ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳/祥伝社)
【アーモンド】韓国で100万部を突破したベストセラー小説。日本でも2020年に本屋大賞翻訳小説部門で1位を受賞した。(ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳/祥伝社)

 小説の『アーモンド』(ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳/祥伝社)はすでに日本でも読んだ人が多いかもしれない。韓国で17年に出版され、この5月に100万部を突破したという。

 担当編集の中川美津帆さんも、最初に読んだときから『アーモンド』の面白さのとりこになり、日本語訳の出版に奔走した。19年に出版されると、20年に本屋大賞翻訳小説部門で1位を受賞した。

 扁桃体(アーモンド)が人より小さく、感情が理解できない16歳のユンジェ。母と祖母が目の前で襲われたときも、ただ見ているだけだった。そのユンジェが人との出会いを通して少しずつ成長していく物語。

 日本語版も、本屋大賞の発表以降ベストセラーになったが、BTSの番組の中で、RMとSUGAが読んでいたことで、さらにブレーク。現在、日本でも18万部を突破している。

■読書家のRMが紹介

 最後は読書家のRMがV LIVEで紹介した『少年が来る』(ハン・ガン著/井手俊作訳/クオン)。著者のハン・ガンは16年に『菜食主義者』で、アジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞している。ハン・ガンが、光州事件を丹念に取材し、抗争に巻き込まれた学生や家族、そして活動家が何を思っていたのか、どんな風に命を失っていったのか、生存者はその後をどう生きたのかを描き出した。

【少年が来る】韓国の光州生まれの著者が、光州事件を丹念に取材し、作品を書き上げた。『菜食主義者』でマン・ブッカー国際賞を受賞。(ハン・ガン著/井手俊作訳/クオン)
【少年が来る】韓国の光州生まれの著者が、光州事件を丹念に取材し、作品を書き上げた。『菜食主義者』でマン・ブッカー国際賞を受賞。(ハン・ガン著/井手俊作訳/クオン)

 読後感は重い。けれどもウクライナで多くの人が犠牲となっている今、命が奪われることとはどういうことか、考えずにはいられなかった。

 韓国は、日本以上に受験就職での競争が激しく、生きづらさを抱える人も多いという。アイドルもまた過酷な競争社会を生きており、彼らが手に取る本は、どこか社会を映し出し、そして生き抜くヒントをくれるものが多いように感じた。ぜひこの夏、手に取ってほしい。(編集部・大川恵実)

AERA 2022年8月15-22日合併号

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