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文芸評論家の斎藤美奈子さんが本に書かれた印象的な言葉をもとに書評する「今週の名言奇言」。今回は、『沼にはまる人々』(沢木文、ポプラ新書 990円・税込み)を取り上げる。
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■はまらないと思っていても、気が付けば首までつかっているのが沼だ。(沢木文『沼にはまる人々』)
かつてオタクはネガティブなイメージだった。だが現在、何かを極めることは誇らしい行為に変わっている。それを「沼にはまる」という。2016年頃に出てきたネットスラングだ。沢木文『沼にはまる人々』はそんな人たちへのインタビューから生まれたレポートである。
沼にはまるとは好きを通り越して没入してしまうこと。ある男性(34歳)はプロレス選手にはまって数百万円の貯蓄を使い果たした。仮面ライダー俳優にはまった女性(34歳)はそれが原因で彼氏と別れ、生身の男性と恋愛ができなくなった。ラーメン沼にはまって3食ラーメンを食べ続けた男性(40歳)は2年間で体重が20キロ増え、セックス沼にはまって手当たり次第に男性と寝た女性(34歳)は性感染症を遊び賃と呼ぶ。
いやはや人生、いたるところに沼あり、なのだ。趣味人やマニアと呼ばれる人は昔からいたけれど、今日の沼の特徴は他者の目が意識されていることかもしれない。インスタに上げるために高級な料理店に行き、高価な靴やバッグを買う「承認欲求型の沼」はその代表だろう。
<はまらないと思っていても、気が付けば首までつかっているのが沼だ>と著者はいう。依存症と異なるのは「病気」ではなく、本人も充足感や多幸感に満ちていること。それゆえに人生を豊かにするツールにもなり得る半面、危険な沼も存在する。美容整形沼やスピリチュアル沼もそうだし、際限なく金を吸い上げるシステムが確立されているホストクラブやキャバクラも相当危険な沼に思える。<ホストクラブは女性に対して1対1でコミットするような「疑似恋愛」を提供するが、キャバクラは「疑似モテ体験」を提供する。それが沼の入口なのだ>
恋愛系の沼にはまった人には親との関係が上手くいっていなかった人が多い、という指摘が印象的だ。私にも「はまっている」ものはあるけれど沼ほどではない。池くらいかな。とタカをくくっているのが危ない!?
※週刊朝日 2023年1月27日号
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