ナメコのサラダ

 3年前から始まった共同研究は、田さんが思い描いていたとおりの成果を導き出した。それは、彼の思いに心を打たれた福島大のメンバーの力が大きい。

「面白そうだからやりましょうという感じで、手弁当でやったんです。各自にとってはメインテーマの研究ではない。皆、忙しい中で進めていきました」(同)

 熊田さんが言う。

「放射能の風評被害を払拭させるため、福島県産は安全安心という研究を続けてきました。でもそれとは別の方法でも、福島の役に立ちたい、県内の生産者を勇気づけたいと思ったんです」

 念願がかなった今、研究チームは逆にF27以外のナメコの可能性に期待するようになった。

「キノコを採りに行ってる人は、野生のものは味も大きさも違うといいます。F27とは系統が違うんですね。F27がナメコのイメージを確立させすぎたため、違う系統のものはナメコっぽくないと敬遠されているのが実情。だからこそまったく違う系統のものも食べてみたい。多様性を楽しみたいです」(兼子さん)

 熊田さんはこの8月から海外協力隊の一員として、ブータンで2年間過ごす。

「空いた時間には、ナメコ探しをします。たぶん見つかると思う。ネパールでナメコ近縁種が発見されたという論文が出ています。それにはナメコではない理由が書かれていますが、私はナメコの個体差でしかないと思っているんです。ブータンで見つかれば、DNAの解析をしたいですね」

 60年後には、ブータン由来のナメコが日本を席巻していたりして。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2022年8月19・26日合併号

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