「擦りすぎて指紋がなくなったわ(笑)」 中村幸子さん
「擦りすぎて指紋がなくなったわ(笑)」 中村幸子さん
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「アラウンド90」でもなお現役である人に話を聞いた。今回は靴磨き職人の中村幸子さん。

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 サラリーマンの街、東京・新橋で、今日も靴磨きに精を出す女性がいる。中村幸子さん(90)。この仕事を始めて50年になる大ベテランだ。

 記者が訪ねた日、30代半ばと20代後半とおぼしきサラリーマン2人組が、相次いで中村さんに靴を磨いてもらっていた。彼らに話を聞くと、「これから大事な取引があるので、上司からここで靴を磨いていけと言われたんです」。

 その話を伝えると、中村さんはうれしそうに、

「私を当てにして来てくれるお客さんがいるのよ。大きな仕事の前とか、銀座の女の子に会いに行くからって(笑)。常連のお客さんが来てくれる間は、やめられない」。

 これまでに仕事が嫌になったことは一度もないという。

「嫌な気持ちを持ったら、仕事にならない。嫌々やっていると、お客さんもわかるわよ。うれしい気持ちで働けば、お客さんも喜んでくれるでしょう」

 靴を磨いてもらいながらの質問に、ハキハキとした口調で答える。

「浜松市の警察官の家に生まれて、いろいろあって19歳のときに家出同然で上京したの。それですぐ、妻子もちの男にだまされちゃって」

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