さて、入院から10日ほど経った時、Aさんから「PCR検査で陰性が出ないと退院できないと言われた」と連絡がありました。どうも退院の基準が、新型コロナウイルスワクチン接種の有無で異なっており、未接種者であるAさんは、「発症日から10日間経過する前に症状軽快した場合、症状軽快後24時間経過後、24時間以上間隔をあけ2回のPCR検査陰性を確認できれば退院可能とする」という基準に従わないといけないようなのでした。

 こんな基準では、個人差はありますが、元気なのに1カ月以上入院しなければならないケースも出てきます。案の定、毎日PCR検査をするも陽性ばかり出る始末。Aさんからは、「何度も保健所に連絡しては交渉を重ね、主治医からも保健所に交渉をしてもらい、なんとか入院から14日目に退院できました」と連絡がありました。退院の際、「退院後の行動については、保健所からの指示を待つように」と伝えられたそうですが、1月24日現在、「保健所からの連絡はない」とのことでした。

 日本のCovid-19対策は、感染症法に基づいた防疫措置です。感染症法で規定された病原体、つまり新型コロナウイルスに感染すれば、たとえ無症状であっても、「病院」に強制隔離されることが感染症法に規定されています。Aさんも、今回受けた境遇を振り返り、「保健所は、コロナを捕まえることだけに躍起になっている気がした。犯人扱いされている気分だった」と言います。

 医療とは、本来、患者さんの各々の状況に応じて、臨機応変に対応することが必要であり、重要であると日々実感しています。Covid-19だからといって、軽症な人も、重症な人も、全て入院させていては、必要な人が入院できない状況がすぐに生じることは容易に想像できます。医療費も無駄でしょう。そして何より、2回目の接種から時間が経過してしまっていることから、院内感染が起きやすくなっている可能性もあります。

 保健所からの連絡も日に日に遅くなってきていると聞いています。そろそろ、コロナと言う「犯人」探しに重点をおく政策から、方向転換しないといけない時に来ているのではないでしょうか。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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