脳死を人の死とする論理は、81年に米国の大統領委員会で形成されたという。(1)「有機的統合性の消失」を人の死と定義。有機的統合性とは、体温や血圧、免疫など体の機能が一定に保たれていることだ。(2)その唯一の司令塔は脳であり、(3)脳の機能が停止すれば有機的統合性は消失するので、脳死は死の判定基準になる──という理屈だ。だが、脳死状態のまま生き続ける人は少なからずいる。

 米国のTKと呼ばれる男性は4歳で脳死と診断されたが、2004年に亡くなるまで21年間にわたって生存した。身長は150センチ、体重は60キロとなり、髭が生えるなど第二次性徴も現れた。死後、脳を解剖したところほとんどが溶けて液状化しており、残った脳幹部分も石灰化していた。

 小松氏が解説する。

「脳がそんな状態になっても、TKは成長して生き続けたのです。後に米国は大統領委員会の公式論理の誤りを認めています。脳死者の体に触れれば温もりがあり、脈も取れます。脳死は専門医にしか判断できず、肝心の遺族は死から遠ざけられてしまう。従来の『3徴候』による判断基準で大きな問題はなく、墨守するべきだと考えます」

(本誌・亀井洋志)

>>【関連記事/老化と死の関係は? 日本人の死因1位「がん」のメカニズムは?】はこちら
>>【関連記事/日本は解剖数が少ない? コロナで露呈した「死因究明」の弱さ】はこちら

週刊朝日  2022年2月4日号より抜粋