東京財団政策研究所主席研究員・柯 隆さん(58)(か・りゅう)/中国・南京生まれ。名古屋大学大学院修士課程修了。専門は経済学(開発経済)。著書に『「ネオ・チャイナリスク」研究』など
東京財団政策研究所主席研究員・柯 隆さん(58)(か・りゅう)/中国・南京生まれ。名古屋大学大学院修士課程修了。専門は経済学(開発経済)。著書に『「ネオ・チャイナリスク」研究』など
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 徹底した行動制限でウイルスを封じ込める「ゼロコロナ政策」の下、開催される北京冬季五輪。市民の自由を抑圧して開く祭典は何をもたらすのか。AERA 2022年2月7日号は、柯隆・東京財団政策研究所 主席研究員に聞いた。


*  *  *


 習近平(シーチンピン)政権にとって、北京五輪は「国威発揚のいい機会」ととらえていると思います。ただ、不安材料もあります。


 一つは「ゼロコロナ政策」です。経済に与えるダメージが大きいという点では、ほぼ失敗していると言っていいと思います。


 中国国家統計局の1月17日の発表によると、中国の昨年の経済成長率は第2四半期(4~6月)で7.9%だったのが第3四半期(7~9月)でぐんと落ち込み、今の中国の潜在成長率を考えると低すぎる4.9%。そして第4四半期(10~12月)はついに4%。失業が深刻化するのは確実といった状況にまで落ち込みました。


 中国は輸出は好調で、貿易が原因ではない。高速通信規格5Gへの投資も好調。つまり、経済が急激に下がっている要因は「消費」なんです。例えば、ゼロコロナ政策で昨年末、西安という人口1300万人の大都市を1カ月間、完全にロックダウンしました。これで経済成長するわけがない。個人消費が妨げられたことが、落ち込みの主たる原因だと思います。


 もう一つ心配なのが、習政権の「政策立案」の過程が混乱するケースがあることです。例えば、昨年の第3四半期に入ってから電力の供給が間に合わず、沿海の大都市などで大規模停電が起きました。本来なら担当省庁と電力会社などが調整し、産業用の電力を一定時間止めるなどして調整を図るのが賢いやり方です。しかし、中国は生活用電力、道路の照明から信号機まで「全部」止めてしまった。経済に影響しないはずがありません。各行政の組織がきちんと議論できず、大混乱に陥っている様子が見てとれました。


 五輪とは「非日常」です。終わったあと日常に戻り、現状でも格差の大きい経済がどんどん減速し、失業率も上がったときに、習政権が人民の声に応えることができるのか。秋の共産党大会では習政権を止める勢力は見当たらず、おそらく続投でしょう。ただ、政策立案の現場での混乱を見ている限り、私は「道は厳しい」と見ています。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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