左から「賢合庄」、「楊國福マーラータン」(撮影/岩下明日香)
左から「賢合庄」、「楊國福マーラータン」(撮影/岩下明日香)

「池袋の中華料理店は東北や四川が目立ちますが、高田馬場は唐辛子をふんだんに使った湖南省料理『湘遇Tokyo』や、羊を使った内モンゴル料理『内蒙人家』など様々な地域が集まっているほか、若者向けのザリガニやタニシ麺も出てきて、ジャンルが豊富なのが特徴です」

 阿生さんは「蝦道(シャドウ) ザリガニ専門店」(西早稲田)でザリガニを食べたことがある。「エビに近い風味でよくビールとあう」といい、味付けがしっかりしていて臭みはないようだ。

 記者はタニシ麺を試しに食べに行った。場所は高田馬場駅近く、飲食店が軒を連ねる「さかえ通り」にあるビルの4階に店舗をかまえる「螺友(ラ・フレンド)」。2021年9月に開店したばかりだ。定番メニュー「ルオスーフェン」を注文した。黒酢と甘酢がベースでちょいピリ辛のあっさりしたスープに、喉越しのいいつるつるとした麺、そしてトッピングに黒いコロッとしたタニシの身と落花生、キクラゲなどが添えられていた。タニシは、サザエのような貝の風味に、よく茹でしたタコのような弾力で、噛めば噛むほど味が出てきた。

「螺友」で人気のタニシ麺などのメニュー(撮影/岩下明日香)
「螺友」で人気のタニシ麺などのメニュー(撮影/岩下明日香)

「ルオスーフェン」は通称「タニシ麺」と呼ばれ、ベトナムと国境を接する南部にある広西チワン族自治区の名物料理。オーナーの趙さんによると、2年ほど前から中国の若者の間でインスタントのタニシ麺が人気だという。中国人でもインスタント麺は食べたことはあっても、お店の料理として食べたことがある人は少なく、試しに食べにくる若者もいるようだ。

「中国は広いので、北の人が南の料理を食べたことがないように、中国人でも本物のタニシを食べたことはないっていう人が多くて、珍しいから食べにくる人もいます。独特の臭みが若者から人気で、特に酸味を好む女性の口に合うようです」

 店に来る客の9割が10~20代の中国人で、うち7割は女性。店内は6、7席ほどの狭さだが、出前サービスの注文がよく入る。趙さんによると「出前は店内に比べて3倍以上の売り上げ」で、中国版のウーバーイーツである「ハングリーパンダ」など5、6社の出前サービスを駆使して売り上げを伸ばしているという。

「池袋でも店をやっているけど、高田馬場は家賃が半額ほど。安いからこっちの方がいいよ」(趙さん)

中国からの輸入品を扱う物産店(撮影/岩下明日香)
中国からの輸入品を扱う物産店(撮影/岩下明日香)

 タニシ麺店の入るビルの1階には中国の商品をそろえる物産店「物産島」が入っている。ベトナムの商品も並んでいるが、主に中国から輸入してきた食材が多い。こうしたアジアンショップ的な店は新大久保にも増えている。

 前出の向井編集長はいう。

「中国の若い層はデリバリーサービスに慣れているので、飲食の他にも物産店のちょっとした商品でもポチポチ買う消費行動があります。サービスもウーバーとかではなく、『EASI(イージー)』など中国人向けのアプリを利用していますし、配達も中国人です。彼らのコミュニティーの中で経済圏が確立しています」

 高田馬場ではコロナによって、居酒屋やパチンコ店の撤退が相次いでいた。

「日本の居酒屋チェーン店が撤退して、空いたままの箱がいくつかありますが、日系企業は二の足を踏んで入っていかないのが現状です。中規模の箱に中華料理店が入っていき、小規模の箱に物産店が入る傾向があります」(向井編集長)

 著しい変化ではあるが、異国の空気を身近に体験できる旅気分で「ガチ中華」を食べられる場所としては楽しめそうだ。

(AERA dot.編集部・岩下明日香)