瀬戸内:すごくいい人が出てくれたみたいだけど、自分のことを書いたものが映像になると、やっぱり違うのね。小田仁二郎が玄関脇の1畳ぐらいの狭い場所に机を置いて仕事をしてるの。私、そんなところに男を置かないわよ。
林:もっといいところに置く?
瀬戸内:大きな机を買って、一番日当たりのいい場所に置きましたよ。そう言ったらみんなゲラゲラ笑ってましたけど。
*
林:小田さんっていい男だったんですね。
瀬戸内:いい男だったのよ。それに惚れたんだもん(笑)。
林:先生、面食いですもんね(笑)。一時期、代々の男の人の写真を書斎の壁に飾ってたんですよね。小学校の校長室みたいに。
瀬戸内:その下で『源氏物語』(現代語訳『源氏物語』全10巻)を書いてたの(笑)。よくあんなことしたわね。ホントはね、これは一世一代の仕事だから守ってね、というつもりで。
林:校長先生は何代まで?
瀬戸内:ハハハ……、そんなにはいないよ(笑)。
林:先生の人生って、恋と書くことと……。
瀬戸内:だって、生きるってことは、それだけじゃない。
林:まあ、ステキ!
瀬戸内:あなただってそうでしょ?
林:先生は得度なさるまでいろいろあったでしょうけど、私なんて……。
瀬戸内:隠してるだけじゃないの? エッセーに書いてるみたいに、ご主人は本当にあんなにうるさいの?
林:ホントにうるさいんです。
瀬戸内:それなら別れなさいよ。なんでヘイコラしてるのさ。
林:このあいだ占いの人に見てもらったら、向こうの先祖が私を手離さないと言われましたよ。こんなにいいお嫁さんはいないから。
瀬戸内:アハハハ。* あなたには悪いけど、私は女の作家は結婚しないほうがいいと思ってるの。でもあなたをここまで書かせたんだから、そんなに悪い亭主じゃないのかもしれない。
(構成 本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2022年2月18日号