藤井聡太はこれまで登場したタイトル戦番勝負のすべてを制してきた。王将位も獲得すれば、10代にして8大タイトルの過半数を占める
藤井聡太はこれまで登場したタイトル戦番勝負のすべてを制してきた。王将位も獲得すれば、10代にして8大タイトルの過半数を占める
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 王将戦で渡辺明王将に挑んだ藤井聡太竜王。開幕から3連勝で史上最年少五冠に王手をかけた。渡辺王将の3連敗から4連勝という大逆転防衛はあり得るのか。AERA 2022年2月14日号から。

【写真】藤井聡太竜王が昼食に頼んだカレー

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 藤井聡太竜王(19)はこれで3連勝。史上最年少での王将位獲得、五冠同時保持まであと1勝と迫った。

 将棋史上初となる四冠対三冠のタイトル戦。ここまで一方的なスコアは、信じられないような気もする。しかしまるで想定できなかったといえば、それもまた嘘になるだろう。

 今年度、藤井は棋聖戦五番勝負で渡辺明王将(37)の挑戦を3連勝ストレートで退けている。また竜王戦七番勝負では豊島将之竜王(現九段、31)に4連勝ストレート。ならば王将戦でこれだけ勝ってもおかしくはない。旧来の将棋界の常識では考えられないようなことを現実にしてきたのが、藤井四冠だ。

 王将戦では対局後、勝者が撮影に応じるのが恒例で、俗に「勝者罰ゲーム」とも言われる。

 かつての王将戦では「指し込み」が現実におこなわれていた。七番勝負の途中で3番差がつくと、そこで王将位は確定。さらに敗者の側は「香落」(格下の側が香を落とされるハンディ戦)での対局までしいられた。こちらは過酷きわまりない、真の意味での「罰ゲーム」だ。

 昭和の大名人・大山康晴(1923~92)は、絶頂期を迎えつつあった天才・升田幸三(1918~91)に王将戦で指し込まれ、さらには香落番でも敗れるという屈辱を味わわされた。

 渡辺は厳しい状況に追い込まれた。ここからの大逆転防衛は至難の業。将棋界の七番勝負で3連敗からの4連勝はこれまでわずか2例しかない。

 ただしそれを最初にやってのけたのは他でもない、渡辺である。2008年の竜王戦七番勝負。初代永世竜王をかけたシリーズで渡辺竜王は、最強の挑戦者である羽生善治名人(51)に3連敗(肩書はいずれも当時)。しかし第4局、渡辺は「打ち歩詰め」で自玉が詰まず、奇跡的な逆転勝利を飾った。そして大逆転防衛を果たした渡辺の底力を思えば、今期王将戦もまだ終わったというべきではない。

 渡辺明はあきらめない。藤井四冠の壁となる1番手は、渡辺三冠の他にいない。

■実質的に年収1億円超

 2月3日には昨年の獲得賞金・対局料ランキングが発表され、1位は渡辺、2位は豊島でともに8千万円超。3位は藤井で約7千万円だった。藤井の今期竜王戦優勝賞金4400万円は今年のカウントのため含まれておらず、実質的に年収1億円を超えていた計算になる。なにもかも規格外の19歳だ。(ライター・松本博文)

AERA 2022年2月14日号より抜粋