腕に被せるだけで袖に見え、スナップボタンを留めて本当に袖をつくることもできるジャケット。腕に麻痺があっても簡単に着られる(photo 日本障がい者ファッション協会提供)
腕に被せるだけで袖に見え、スナップボタンを留めて本当に袖をつくることもできるジャケット。腕に麻痺があっても簡単に着られる(photo 日本障がい者ファッション協会提供)

――平林さんを含め、日本障がい者ファッション協会は理事6人全員が別に本業を持ちながらの運営だ。だが、関西圏の市長が公の場でbottom’allを穿くなど、輪は広がりつつある。

■最高にかっこいい服

平林:僕自身は児童福祉事業をやる会社を運営していて、日本障がい者ファッション協会では誰も役員報酬を受け取っていません。最近、働きたいという連絡もよくいただきますが、常勤職員はひとりもいません。でも、「ボランティア」という意識はない。世の中を変えるおもしろい「箱」にするつもりでやっています。賛同してくれる人や、bottom’allのファンになってくれる方も増えてきました。私たちの地元・関西の首長さんにもよくプレゼンさせてもらっています。最初に大阪府茨木市の市長さんが講演会で穿いてくれて、そこからいろいろな市長さんらを紹介してもらいました。企業協賛なども含めて、私たちの理念に共感してくださる方の支援に支えられています。

――団体設立時から「車いすでパリコレ」を一つの目標に掲げてきた。

平林:もともと、「車いすの人がパリコレのランウェイに上がったことがない」という話を聞いたのが、日本障がい者ファッション協会設立のきっかけでもありました。すべての記録を完璧に調べられたわけではありませんが、調べられる範囲では確かにパリコレに車いすの人が出た記録は見つかりません。衝撃的でした。これだけ多様性が広まってきているのに、そんなことがあるのかと。だったらその現実を自分たちで変える。今秋、パリコレ期間中にファッションショーをするため、すでにパリの会場を仮押さえしています。

 僕は「障害者でもオシャレができるよ」って考え方は大嫌いです。福祉の暗いイメージを壊すためにも、最高にかっこいいものを目指します。ファッションがおもしろいのは、見た瞬間、1秒で、理屈抜きで価値観を覆せること。ランウェイにのぼった瞬間にこれまでの価値観がすべてひっくり返るようなかっこいい服をお見せします。そして、パリは目的ではないし、ゴールでもない。そこから先につなげていくことが何よりも大切だと思っています。

(編集部・川口穣)

AERA 2022年2月21日号

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