【わたしは真悟】
楳図作品の最高傑作ともいわれる。楳図さんは本作で第45回アングレーム国際漫画祭「遺産賞」を受賞(photo 楳図かずお大美術展製作委員会提供)
(c)楳図かずお/小学館
【わたしは真悟】 楳図作品の最高傑作ともいわれる。楳図さんは本作で第45回アングレーム国際漫画祭「遺産賞」を受賞(photo 楳図かずお大美術展製作委員会提供) (c)楳図かずお/小学館

■白と黒で闇が輝く

 楳図さんの代表書籍が並ぶエリアでは、伊藤さんは懐かしそうに一点一点を眺めていた。

「『ママがこわい』(65年)はお母さんが蛇に変わってしまう話。それまでの少女漫画で優しくて、頼れる存在だったお母さんがまったく違う存在に描かれる様子に震え上がりました。短編『イアラ』(70年)シリーズはビッグコミックに連載されたちょっと大人向けの作品。ギャグ漫画といえば『まことちゃん』(76~81年)が有名ですが『アゲイン』(70~72年)もおもしろいのでおすすめです」

 伊藤さんの「ベスト・オブ・楳図作品」を聞いてみた。

「やっぱり『漂流教室』ですね。そして短編の『ダリの男』(69年)もラストが強烈なインパクトで印象的です。『14歳』も、とてつもない境地に到達された傑作です。絵柄で私が一番なじんでいたのは『蝶(ちょう)の墓』(68~69年)のタッチです。『こわい本シリーズ』という大きめサイズの本で描き込みのすごさとクオリティーがよくわかった。当時から楳図先生の漫画は“芸術”そのものでした。ペンの白と黒の対比によって闇が輝くような作品が生み出されているんです」

 高校時代に「漫画は芸術たりうる」と気づいた伊藤さん。歯科技工士の仕事の傍ら漫画を描き、「月刊ハロウィン」に創設された「楳図賞」に入選しデビューした。

 そして、いよいよ『14歳』以来、27年ぶりとなる新作「ZOKU−SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」のエリアへ。80年代の『わたしは真悟』の続編でもあり、時空を超えた並行世界でもある。作品は漫画ではなく、101枚の絵画として描かれている。鉛筆とアクリルガッシュで描かれ、連作としてストーリーを形成。それぞれが完結した作品にもなっている。

『漂流教室』に登場する怪虫。「子どもを空中に放り投げて放射状の口でバクッと食べちゃう様子が恐ろしくて」(伊藤さん)(c)楳図かずお(photo 写真部・東川哲也)
『漂流教室』に登場する怪虫。「子どもを空中に放り投げて放射状の口でバクッと食べちゃう様子が恐ろしくて」(伊藤さん)(c)楳図かずお(photo 写真部・東川哲也)

■カオスにつかる快感

「色彩感覚が素晴らしいですね。タッチもとても生き生きとして力強く、信じられないくらい描き込まれている。『天上人』の絵は『これぞ楳図美人!』という美しさです。楳図作品ではあまり見かけない表情の女性が描かれているのも興味深い」

 着彩(ちゃくさい)と同時に、下絵の素描も101点が展示されている。

「着彩も素晴らしいですが、素描も実にいいですね。腱鞘(けんしょう)炎を患われていると伺いましたが衰えなどまるで感じない。作品からパワーをもらう、というよりも吸い取られていく気がするほどです(笑)」

次のページ