いとう・じゅんじ/1963年生まれ。5歳ごろから楳図作品に熱中し、漫画を描き始める。2021年、第33回アイズナー賞で2部門受賞(photo 写真部・東川哲也)(c)楳図かずお
いとう・じゅんじ/1963年生まれ。5歳ごろから楳図作品に熱中し、漫画を描き始める。2021年、第33回アイズナー賞で2部門受賞(photo 写真部・東川哲也)(c)楳図かずお
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 恐怖漫画のレジェンドといえば、楳図かずおさん。27年ぶりの新作をメインにした展覧会「楳図かずお大美術展」の会場を、彼を敬愛するホラー漫画家・伊藤潤二さんと歩いた。AERA 2022年2月14日号の記事から。

【写真】伊藤潤二さんと歩く展覧会の模様や楳図作品の数々を紹介!(全6枚)

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 東京・六本木にある森タワー52階の「東京シティビュー」。ガラス張りの回廊から東京を一望できるここが「楳図かずお大美術展」の会場だ。

 展覧会は楳図さんの27年ぶりの新作と、代表作『わたしは真悟』(1982~86年)、『14歳』(90~95年)、さらに新作の素描をテーマにした現代アーティストによるインスタレーションで構成される。

 入り口を抜けると、まずは『漂流教室』(72~74年)の名シーンの数々に迎えられる。ある日突然、校舎ごと荒廃した未来世界に送られてしまった小学生たちのサバイバルを描いた名作だ。光化学スモッグなど当時の公害問題への視線も盛り込まれている。当時小学生だった伊藤潤二さんにとって大きな「楳図ショック」となった作品だ。

「幼なじみが『少年サンデーですごい漫画を連載してるよ』と教えてくれて。町に一軒しかない本屋に見に行ったんです。トラウマになるほどの衝撃でした」

《ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》(一部)
2021年 アクリルガッシュ、紙
「わたしは真悟」の続編、または並行世界を描いた101枚の絵画からなる新作だ(photo 楳図かずお大美術展製作委員会提供)(c)楳図かずお
《ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》(一部) 2021年 アクリルガッシュ、紙 「わたしは真悟」の続編、または並行世界を描いた101枚の絵画からなる新作だ(photo 楳図かずお大美術展製作委員会提供)(c)楳図かずお

■幼児期から楳図ファン

 子どもを容赦なく食べる怪虫の不気味さ、同世代の子どもたちがバタバタと死んでいく展開に圧倒された。単行本を買いそろえて読みふけったという。

 実は、伊藤さんと楳図作品の出合いは幼稚園に入る前にさかのぼる。姉たちが読んでいた「少女フレンド」で楳図作品を知り、魅了された。

「楳図作品の特徴である美少女の叫ぶ顔などを鉛筆で模写をしていました。『漂流教室』では怪虫や未来人類など怪物系を好んで描きましたね(笑)」

 続く展示は、現代アーティスト・エキソニモによる『わたしは真悟』の巨大インスタレーション。小学生の悟(さとる)と真鈴(まりん)によって産業用ロボットが自我に目覚めるストーリーは、コンピューターや人工知能(AI)など未来を予見し、楳図作品の最高傑作とも言われる。

エキソニモによる『わたしは真悟』の巨大インスタレーション。背後には作中で重要な舞台となる東京タワーが見える(photo 写真部・東川哲也)
(c)エキソニモ (c)楳図かずお
エキソニモによる『わたしは真悟』の巨大インスタレーション。背後には作中で重要な舞台となる東京タワーが見える(photo 写真部・東川哲也) (c)エキソニモ (c)楳図かずお

「印象深いのは、やはり東京タワーのてっぺんから悟と真鈴が飛び移るシーンですね。少年と少女の恋もみずみずしく描かれていて、当時19歳だった私もその純粋な愛にときめくような気持ちで読んでいました」

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