◆急成長の鍵山が宇野の心に刺激
鍵山がお手本にしてきたのは、「孤高の存在」でまねのしようがない羽生結弦ではなく、優れたスケーティング技術を持つ宇野昌磨(24)だという。
宇野は平昌での銀メダルに続き、2大会連続のメダルとなる銅メダルを獲得した。コーチを務めるステファン・ランビエル氏が新型コロナウイルスの検査で陽性となり、北京入りが遅れるなどの波乱があったものの動じることなく、4種の4回転ジャンプを計5回跳ぶという自分史上最高難度のプログラムに挑んだ。フィギュアスケート評論家の佐野稔氏がこう語る。
「結果的に四つのミスがあったが、今回は自分の得意なジャンプだけでなく、跳べるジャンプをすべて入れて勝負にいった。今までは羽生選手の後でいいという気持ちがどこかにあったように思いますが、今回は自分自身にプレッシャーをかけて挑んだ。果敢に挑戦する姿勢は立派でした」
バンクーバー五輪に出場したプロフィギュアスケーターの小塚崇彦氏も、宇野の姿勢に変化を感じたと語る。
「試合後の宇野選手のコメントの中に、普段あまり口にしない『緊張していた』という言葉がありました。それはスケートへの向き合い方が変わったということ。より深くスケートを考えたからこそ、緊張したという表現になったのでしょう。今後、もっともっと、より人間味のあるプログラムを滑ってくれるんじゃないかと期待しています」
変化の背景には、急成長する後輩の存在もあったようだ。宇野は試合後のコメントで、鍵山についてこう語っている。
「優真君の練習を見ていると、本当に僕にはないもの、ジャンプの完成度、プログラムの完成度も素晴らしいものを持っているので、見ているたびに、今のままじゃだめだなっていう向上心を、毎日刺激をもらえる」
ライバルたちの切磋琢磨が、日本フィギュア界を次の時代へと進めようとしている。(本誌・村上新太郎、大崎百紀/菱守葵)
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※週刊朝日 2022年2月25日号