そこには、初の4回転アクセルを跳ぶという思いだけでなく、勝利へのあくなきこだわりがあったと、佐野氏は推測する。

「羽生君はこの約3年間、ネーサン・チェンに勝っていない。勝つために何をするかを考えた結果、4回転アクセルに結び付いた面もあるのではないか。あえて安全策を取って4回転アクセルを入れない構成にしたら、完璧に演技してもチェンには恐らく勝てない。彼は金メダル以外は評価していないと思いますし、それは五輪2連覇の王者としてのプライド、矜持だけに突き動かされてきたのかもしれない」(佐野氏)

「安全策」か「挑戦」かは、五輪という舞台で繰り返し問われてきたテーマでもある。

 10年バンクーバー五輪では、エバン・ライサチェク(米国)が4回転に挑まず完成度の高さで勝負する「安全策」で金メダルを獲得。一方、4回転に挑み、銀メダルに終わった“皇帝”エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)は「4回転を目指さないのは時代を逆戻りするだけだ」などと持論を展開。当時の「4回転論争」につながった。ちなみに、この大会で銅メダルの高橋大輔も4回転に挑戦している。金メダルを逃したのは、プルシェンコと同様だ。

 今回のフリーの演技後、プルシェンコは自身のSNSに「ユヅル・ハニュウ、あなたの残したものは私たちの心に永遠に残る。あなたの勇気とプロフェッショナリズムは無限だ」と投稿。自らと同じ「挑戦者」の道を選んだ羽生に賛辞を送った。

 羽生は立ち居振る舞いでも、見る者の心を動かした。不本意な試合結果だったにもかかわらず、記者の質問にも最後まで丁寧に答え、「ありがとうございました」と頭を下げる。20日に出場するとみられるエキシビションについて聞かれると、「皆さんにちょっとでも、ありがとうっていう気持ちが届くような演技になったらいいなって思います」と語った。日本だけでなく、中国のファンの間でも称賛の声が相次いでいるのは、決して慢心しないこうした姿勢への共感もあるのだろう。前出の小塚氏は、羽生の人間性についてこう評する。

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