北京五輪最大の焦点だったフィギュアスケート男子・羽生結弦の3連覇はならなかった。転倒のリスクを厭わず、4回転アクセルという前人未到のジャンプに挑んだのはなぜだったのか。世界が注目した魂の4回転半を振り返る。
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フリーの曲「天と地と」の調べが勇壮に響き渡る中、羽生結弦(27)は4回転アクセル(4回転半ジャンプ)への軌道に入った。左足で踏み切ると、高さのある跳躍を見せ、右足で着氷。回転不足で転倒はしたが、国際スケート連盟(ISU)は公認大会で世界で初めて4回転アクセルを跳んだと認定した。
2日前のショートプログラムでスケート靴が氷上の穴にはまる不運に見舞われ、まさかの8位発進となった。この日も4回転アクセルを含め2度の転倒があったが、それでも188.06点と、フリーで3位となる高得点をたたき出し、総合順位を4位まで押し上げた。
羽生はこう振り返った。
「全部出し切ったというのが正直な気持ちです。明らかに前の大会よりもいいアクセルを跳んでましたし、『もうちょっとだったなあ』って思う気持ちもあるんですけど、あれが僕の全てかなあって」
2連覇を達成した平昌五輪からの4年間は、人跡未踏の地を探す航海のようだった。そんな中で羽生が見いだした道は、幼少期に指導を受けた都築章一郎氏から「王様のジャンプ」と言われたアクセルへの挑戦。フィギュア男子シングルでは94年ぶりの3連覇を目指すだけでなく、史上初の4回転アクセルを決めることを最大のモチベーションとしてきたのだ。
成功こそしなかったが、羽生の挑戦は、多くの人々の目に焼き付いた。フィギュアスケート評論家の佐野稔氏はこう語る。
「今までの4回転アクセルの中で一番良かった。回転をするためには高さが必要。しかし、高く跳んだ結果、落ちてくる時にどうしても軸が乱れることがある。今回の転倒の原因も軸のわずかな乱れだったのではないかと思います」