林:「文藝首都」にいらしたとき、北杜夫さんが先生に「ああいう有名な作家をお父さんに持つと大変でしょうなあ」っておっしゃったとか。
佐藤:自分は斎藤茂吉の息子のくせしてね。そのとき私は何て答えたか。当時は茂吉大先生の子息とは知らなかったもので、トンチンカンなことをいったと思いますね。多分。
林:佐藤紅緑さんのお嬢さんってことは、隠してらしたんですか。
佐藤:べつに隠してたわけじゃないけれど、いう必要のないことですからね。佐藤紅緑といったって、それがどうした、ってくらいの存在になってましたしね、父は。でも、加藤先生が「文藝首都」の主幹に「紅緑さんの娘がお世話になってるから、面倒見てやってくれ」という手紙をお書きになったので、それでわかっちゃったの。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
佐藤愛子(さとう・あいこ)/1923年、大阪府生まれ。甲南高等女学校卒。63年「ソクラテスの妻」で芥川賞候補、69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞。79年『幸福の絵』で女流文学賞。2000年に『血脈』完結で菊池寛賞。15年『晩鐘』で紫式部文学賞。父は作家の佐藤紅緑、母は女優の三笠万里子、異母兄は詩人のサトウハチロー。16年の『九十歳。何がめでたい』は130万部を超えるベストセラーに。そのほか、『気がつけば、終着駅』『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』など著書多数。
※週刊朝日 2022年2月25日号より抜粋