林:遠藤周作先生は、「灘中学に行っていたとき、甲南高等女学校にすごい美少女がいて、それが佐藤愛子さんだった」ってよく書いてらっしゃいましたよね。

佐藤:伝説みたいになっちゃってるけど、そういうのはたいていウソなんですよ。面白半分に言ってるだけです、遠藤さんが。

林:あら、そうなんですか。佐藤先生は川上宗薫さんともすごく仲良かったんですよね。

佐藤:ええ。私は「文藝首都」という古くさい貧乏同人誌の同人だったけど、川上さんは一匹狼というか、もう文芸雑誌に時々だけど作品が載るような作家になってました。私たちが「文藝首都」を出て「半世界」というグループを作った頃に、ひょっこり遊びに来たんです。とにかく文芸誌に小説が掲載されたというだけでも私たちにはたいへんなことでしたからね。次の集まりは川上宗薫が来る、というので皆緊張してたんですよ。そうしたらやって来た川上さんは、その頃、定時制の英語の先生をしてたんだけど、学生向きの他愛ないジョークをとばしたり、私の着てる洋服の生地がゴワゴワしているのを見て、そのゴワゴワでオッパイがあるかなきか、あいまいになるのがいい、とか、くだらないことばかりいうので、すっかり失望されてしまった。それから客分という形で参加するようになって、仲良くなったんですよ。

林:先生は出来の悪い弟みたいに川上さんをかわいがっていらして、彼がセクシュアルな小説をお書きになって、女の人のことで先生に相談すると、先生にたしなめられたり怒られたりしながら“なついてる”という感じが、すごく面白かったです。

佐藤:ハハハハ、“なついてる”というのは面白い表現ね。文学の力量では遥かに彼のほうが高いのに、なぜか私のほうが威張ってたの。でも、彼は何とも思っていなかったみたい。

林:先生のころは、やっぱり純文学のほうが上という風潮があったんですか。

佐藤:そりゃもう強いわよ。芥川賞もらった作家はエンターテインメントは書きませんでしたね。たまに書く人がいると、「えっ……」と思ったものですよ。芥川賞のほうは純文学ですからね。直木賞はそれより格が落ちる。大衆相手という感じでした。芥川賞を受賞した作家が大衆的なものを書くと、「身をもち崩した」という感じがあってねえ。私は何も知らずにただ書きたいと思うものを書いていただけなので、純文もエンターテインメントも、そのチガイがよくわからなかった。

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