イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)
イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)
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 人と人との“距離”を意識するようになって、丸2年。新型コロナの影響で、「会わない」がすっかり定着してしまった。それは他人だけではなく、家族もしかり。AERA 2022年2月28日号では、老親と子ども「親子のディスタンス」を特集。コロナ禍ならではの“変化”とは――。

【久しぶりの帰省に母親は…「漫画の続き」はこちら】

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「スマホなんて使えないんだから、ガラケーでいいよって言ったんですけどね」

 80歳の母親とのやり取りをそう振り返るのは、都内に住む会社員男性(53)だ。

 コロナ禍になって最初の夏。長年ガラケーだった母親が、突然スマホデビューした。高齢者にやさしい「らくらくホン」でさえ苦戦していたのに、だ。

「友達の機種変更にくっついていったら、自分も変えちゃったみたいで」

 まさに、傘寿にしてデビュー。だが、家族にとってイチ大事だ。予想どおり電話一本かけるのにも悪戦苦闘。男性に迷惑メールが届いたと思ったら、数字がランダムに組み合わさった母親の「初期設定アドレス」からだったこともあった。

イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)
イラスト/小迎裕美子(AERA 2月28日号から)

■同じことばかり聞かれ

 リモートで使い方をレクチャーして、はや1年半。同じことを何度も聞かれてイラッとしたのは、一度や二度ではすまない。ときには、「いいかげん、覚えてよ!」なんて言ってしまったことも。

「親だからって、ついきついことを言っちゃうんです。忍耐強くならなきゃと思うけど、たぶん難しい」

 だが、そのスマホには感謝しているという。

「私も母も一人暮らし。安否確認も兼ねてマメにLINEで連絡をとっています。コロナ禍もあって、お互いを思いやれるようにもなりました」

 群馬から上京して35年が経った。この間の親子関係を振り返ると、帰省は年に1度あるかどうか。それがいまや、毎朝LINEでスタンプを送り、母親の「既読」がつくかを確認している。週に1度は通話もするし、以前より親の状況がわかるようになった。嫌なイメージばかりがつきまとう新型コロナウイルスだが、「よくなったところもありますよ」と、男性の声はすこぶる明るい。

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