●多くの別名を持つ神さま
えびす神はまた、いろいろな神の別の姿とも言われ、例えば日本創成の神であるイザナギとイザナミの子・ヒルコ(蛭子)の別姿、あるいはオオクニヌシの子・事代主神(ことしろぬしのかみ)と同神とされることもある。ほかにもいくつかの神さまの別名としてえびす神があげられている。このようなえびすさまは、神社でもお寺でも祀られてきたし、商業が発達してくると商いの神さまとして多くの商家に祀られていくようになる。
●タイコクさまとえびすさま
ある意味、えびす神は便利に各神仏と習合してきたとも言える。神話や言い伝え、紀紀などの文献と辻褄をを合わせるごとに、日本由来の神・えびす神の守備範囲が広まっていったのだろう。縁起物としてよく使われる「ダイコクさまとエビスさま」の2像だが、いつの時代にこの2柱がセットとなったとかははっきりしない。ダイコクさま自体が、仏教と日本神話が合わさって、大国主なのか大黒天なのかすでにはっきりしないのだから、推して知るべしである。
●西高東低のえびすさま
それでも、日本神話をもとに「ダイコクさまとエビスさま」は親子である説や、市場の発展とともに五穀豊穣の農業と漁業の両輪である説などから2神は一対として祀られることが増えていく。今では、この2神が並んでいるのはあたり前のように感じている。
ところが、それぞれを1神として考えてみると、えびす信仰は関西から西に比重があるように思える。「えべっさん」の愛称で知られる、えびす神社の総本社・西宮神社や、十日戎で知られる今宮・戎神社、「出雲のえびすだいこく」と呼ばれる美保神社など、全国3500社あると言われる社のうち、大社の多くは日本の西側に集中しているのだ。これは長く商業の中心が関西にあったこと、江戸時代の貿易の拠点が長崎にあったこと無関係ではあるまい。
●留守神としても知られる神
いつもニコニコ、ふくよかで穏やかな顔を「えびす顔」という。いつの間にか、同じようににこにこ顔になったダイコクさまの顔は「だいこく顔」とは言わない。それはきっと、えびすさまという神さまの成り立ちにも関係しているのかもしれない。
えびす神はまた、留守神とも呼ばれている。神無月(10月)に神々が出雲に集まる際、オオクニヌシ(出雲神さま)の子神であるえびすさまが、地元で留守番をして市井を守っているという逸話からきた話である。お寺にいる大黒天とえびすさまはどうなるのか、などと野暮な話はなしにして、「みんな仲良く」は日本人が続けてきた結晶がえびすさまともいえるのだろう。
山手線の駅名は、その名の元となったヱビスビールの工場があることから「恵比寿駅」となった。この工場にちなんで恵比寿神社もちゃんとある。実は、最初は大黒ビールとなる予定だったのだが、その名がすでに使用されていたため、第二候補のヱビスビールとなったのだとか。もし、大黒ビールだったら、目黒駅の隣が大黒駅だったのかと思うとちょっと混乱しそうである。
「えびす」という音には、安らぎを感じるの響きがある。はるか昔の人が聞いた、何かの発音を、日本語にあてたものだったのだろう。たぶん「かっぱ」のように。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)