作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は「慰安婦」運動支援者の裁判について。
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韓国の国会議員、尹美香さんの裁判が佳境を迎えている。
「慰安婦」問題を解決する団体「正義記憶連帯(正義連、旧挺対協)」の理事長だった尹美香さんは、2020年9月に検察に起訴された。主な容疑は、国家の補助金や支援金の横領だ。裁判は昨年8月にはじまり、先日10回目を迎えた。
韓国を代表する人権団体が、国からの補助金を横領していたというストーリーは多くの人を刺激した。メディアは「不正」を競うように書き立て、検察は捜査を強行し、ターゲットとなった女性の多くは心身のバランスを崩し、被害女性を献身的に支えてきた女性が自死するまで追いつめられた。メディアを通じて見る尹美香さんの表情はますます険しくなっていき、それは試練の惨さを感じさせるものだったが、尹美香さんは容疑を一貫して否認してきた。
それでも、メディアが疑惑を書き立てたことで、運動が沈静化し、人々の間に拭えない疑問が生じてしまったのは確かだ。実際、運動から距離を持つような人も出てきている。「慰安婦」問題に関しては、日章旗などを掲げた集会が目立つようになっていることは、数回前の本連載でも記した通りだ。
私の話をすれば。私は2017年に「希望のたね基金」という団体の理事になった。「正義連」と連携し、日韓の若者の交流事業などをしている。そこで痛感させられたのは、お金の流れの透明性こそが、市民運動の命、ということだ。ざっくりと大きな財布に入ったお金を好き放題使えるはずもなく、使途が明確に決められた小さな財布を複数の目が管理している、というのが常識だ。日本からすれば、正義連の資金は潤沢に見えたが、それでも使われるお金は厳しく審議され、誰だろうが自由には引き出せはしない。
ちなみに「資金は潤沢」とはいうが、正義連の年間予算は日本円で3000万~4000万円である。それでも日本の市民団体からしてみれば、眩しいくらいに潤っているのだ。そのくらい市民運動にお金はなく、チマチマと10円単位でお金を見張る。そういう感覚が染みついている。その私の経験からすれば、尹美香さんたちが、国からの補助金を二重に受け取るような詐欺を働いていたという検察の主張は全く信じられないものだった。