北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 さらに酷いのは、報道や検察の捜査に苦しみ自死した女性について検察が語ったことだ。亡くなった孫英美さんは、16年間、ハルモニたちを献身的に世話してきた。私も何度もお目にかかっているが、女性たちの食事、掃除、身の回りのことを全てやっていらっしゃった。孫さんのことを「神様が私たちに送ってくれた人」と話したハルモニもいるほど、ハルモニの生活を静かに強く支えてこられた。

 私は今回、この裁判を通して、韓国の運動家たちの給与を知って本当に衝撃を受けているが、孫さんの給与は120万ウォン(約12万円)だった。あまりにも低賃金のため、別の予算から100万ウォン(約10万円)が支給されていたが、孫さんは、2019年に1200万ウォン、つまり1年分近くの給与を挺対協に寄付している。そのことをもって、孫さんが二重に給与をもらっており、不純な意図をもって挺対協に寄付したと物語ったのだ。裁判では2020年に、孫さんから寄付金領収書が提出されていないことを、何か咎めるように検察が言ったこともあるという。それに対して証言に立った人は、「もう亡くなっているのに、どうして出せるんですか?」と答えたという。

 孫さんは亡くなる前、検察の捜査が入り、自分の人生が不当に歪められたことに苦しんでいたという。裁判を通して、孫さんの名誉が回復されることを祈りたい。

 韓国の裁判を傍聴したことはないが、検察がムリなストーリーをつくり論拠が破綻していく……という裁判は、国を問わず起きることなのだろうか。韓国検察が「妄想」する「犯罪」の根拠が次々に、市民運動家等による真剣な良心の前に崩壊していく様に、傍聴席では失笑が漏れることが多々あるという。いったい何故このような裁判が可能になったのか、ということは歴史が検証するだろう。今は早く、女性たちの、尹美香さんの無実が立証され、名誉が回復される日を信じたい。そしてそれは、裁判傍聴者たちの記録を知る限り、遠い話ではないだろう。

 性暴力被害者の声に突き動かされるように自分の人生を投じた女性たちがいる。その人生を権力が正面から壊しにかかった。それでも、壊されるわけにはいかない。なぜなら私たちは、被害者の声を聞いたからだ。金でも名誉でも権力でもない、ただ真摯に生きたいという女性たちの運動の力が、今、韓国で大きく試されているのだと思う。日本の今、日本の歴史と切り離せない「慰安婦」運動支援者の女性たちの裁判を、日本からもきっちり見守っていきたいと思う。

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