AERA3月7日号の表紙を飾った尾上松也さん

 経験に裏打ちされた言葉は重い。歌舞伎俳優として、決して恵まれた家に生まれたわけではなかった。20歳の時に父が亡くなり一門の主に。悶々(もんもん)としていた20代前半。「待っていても仕方がない」と2009年に歌舞伎の自主公演を始めた。チケットが完売したのは4回目からだ。

「公演を続けることでお客様が増えたり、毎回スタッフと交渉しなければならなかったことも、『今回はどうしますか』と相手から聞いてくださるようになったり。やり続けることで誰かが見ていてくださり、そこから他のお仕事につながることもありました」

 そんな彼が今後目指す役者とは。

「特にありません。役者は必要とされ続けなければ意味がないと思います。今の僕はこれでいいやと気を抜いたら、すぐにでも消えてしまうと思う。僕にとっては個人がどうなりたいかよりも、どういうものを残したいかが大切。いろいろなことに挑戦して一つひとつに結果を残す。その結果、何が見えるのか。そこを楽しみにしています」

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2022年3月7日号

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