エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今回のAERAは「孤独」特集。私もパンデミックで随分と孤独を学びました。2020年は、思い出すのもつらいほどメンタルをやられ、もののたとえではなく文字通り暗い部屋の隅で三角座りをして泣いた夜も数知れず。元々14年以降、家族はオーストラリア、自分は日本を拠点にして行き来していたので比較的離れ離れ生活には強いと自負していたのだけど、当時最初にオーストラリアに向かうフライトで頭をよぎった「これから、これが私の日常になるのか。つまりは韓国のキロギアッパ(雁の父さん:妻子を海外に留学させて一人韓国で働く孤独な父親たち)と同じ寂しさを味わうんだな……もしパンデミックなんか起きたら会えなくなったりして」という予感がまさに的中したのでした。韓国では1997年の金融危機以降、中間層にもキロギアッパが増加、家族と会う渡航費に行き詰まり、孤独に耐えかねて命を絶つ人もいるといいます。それは全然他人事じゃないと実感しました。今度こそ会えるかもという期待が却(かえ)って心傷を深めることを学んだので21年は期待値を下げて「きっと年末には会えるはず」と腹を括(くく)り、家族とビデオ通話で励まし合って過ごしたものの変異株の流行でそれも叶わず。今年は「大陸に渡ったら20年は戻れない」という遣隋使や遣唐使を心の支えに、もはやこれを日常として生きる心持ちになりました。最近ようやく各国の規制が緩んで今年は家族と会えそうですが、まだ油断はできません。もしまた会えなくなっても心折れないように、今は仏教伝来の本を読んでいます。古の飛鳥の都を身近に感じるのは、命懸けの船旅で長く故郷を離れた多くの人の記憶が宿っているからかも。孤独は距離を超えて家族と、時を超えて先人たちとの絆を深めてくれました。人はいつの時代も、技術と情報で誰かとつながるものなのですね。

「孤独」を社会問題として捉え、対策する動きが進んでいる(photo gettyimages)
「孤独」を社会問題として捉え、対策する動きが進んでいる(photo gettyimages)

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2022年3月7日号