此花区役所によると、生活保護窓口から自立相談支援の窓口を紹介することもあるというが、個別の事例は個人情報を理由に公表できないという。現実として容疑者は孤立を深めていった。
「ただ、現状の生活保護の窓口の多くは、それだけの態勢は取られていません」(浜井さん)
貧困問題に取り組む認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連理事長もこう話す。
「国はさまざまな相談窓口を有機的に連携させることを奨励していますが、現場レベルでできているところは少ない。特に生活保護の担当窓口は忙しく、1人のケースワーカーが100人を担当するなど、つなぐ余裕がないのが実情です」
大西さんはさらに、日本では「相談」の意味や価値が理解されていない点も指摘する。
「生活困窮者自立支援制度の意義は、相談相手として伴走してもらい、必要に応じて地域の支援メニューにつながることですが、日本では専門家に相談する文化が当たり前になっておらず、現金給付ではない支援には価値を感じてもらいにくい」
容疑者は17年に生活保護利用に至らなかった翌月、事件現場のクリニックに通い始めた。「夜眠れない」などと訴えていたといい、通院回数は5年弱で100回を超えていた。容疑者にとってクリニックが社会との唯一の接点だったともいえる。
■英国は「社会的処方」
英国では、社会的孤立や生活面に課題を抱える人に対し、かかりつけ医が患者団体や地域福祉などの社会資源につなぐ「社会的処方」が行われている。日本では現在全国7県でのモデル事業の段階だが全国で実施されるようになれば、適切に福祉につなぐことができるかもしれない。
今回の放火には、ガソリンが使用された。19年の京都アニメーション放火殺人事件を機に、20年2月からガソリンスタンド事業者が容器への販売を行う場合は、客の身元や用途の確認、販売記録の作成が義務付けられている。不審な客を見つけた場合は警察への通報を求めているが、今回、容疑者は使用目的を「バイクに使う」と申告。虚偽申告を見抜くのは難しい。
前出の大西さんは言う。
「経済的な問題はかなり心をむしばみ、周囲に借金をするなど人間関係も壊れます。支援につながるタイミングが早いほど、傷つき体験が少ないので孤立や貧困からの回復も早い。いま、コロナの影響で、経済的に苦しい人は爆発的に増えています。しんどいときに助けて、と言える文化をつくり、社会にさまざまな居場所を作っていく必要があります」
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2022年3月7日号