大阪の雑居ビル放火事件で、容疑者の足取りから「社会的孤立」が浮かび上がる。犯行に至る前に、社会は救いの手を差し伸べられなかっただろうか。AERA 2022年3月7日号の「孤独」特集の記事から。
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昨年12月に大阪市北区の雑居ビルで起きた放火殺人事件では25人が犠牲となった。事件を起こしたとされる谷本盛雄容疑者(61)は事件現場の心療内科クリニックに通っていた患者だった。容疑者は死亡し、犯行動機の解明は難しくなったが、容疑者が経済的貧困を抱え、社会的にも孤立していた状況が明らかになっている。どこかで社会が手を差し伸べる機会はなかったのか、容疑者の足取りから検証した。
容疑者は1985年に結婚し、妻と2人の息子と暮らしていたが、2008年に離婚。孤独感を募らせ、板金工として勤めていた工場でも無断欠勤を繰り返し、失踪した。妻に復縁を迫ったが拒否され、11年に無理心中を図ろうとして長男の頭部を包丁で刺したとして逮捕された。
懲役4年の実刑判決が出て服役。出所後は更生保護施設に入ったことから、家族や親族らが身元引受人を拒否したことが窺える。生活はさらに困窮し、生活保護の申請も試みるが受給できず、一時得ていた家賃収入も途絶え、19年秋からは銀行口座の残高は1万円以下。ついに21年1月に0円になった。携帯電話の電話帳登録は1件もなく、通話履歴もなし。孤立していた。
■中高年単身男性の孤立
法務省職員として刑務所や保護観察所での勤務経験がある浜井浩一・龍谷大学教授(犯罪学)は、元受刑者の生活再建の厳しさを指摘する。
「日本は罪を犯した人に排他的で、人に迷惑をかける人を許さないところがあります。それが犯罪を抑止し、国の安全を守っている側面もあるが、再犯率は非常に高い。それは一度罪を犯すと社会に戻っても居場所がないからです。人が罪を犯すのは、貧困や孤立などの理由で自尊感情が著しく低下しているとき。ここにいてもいいという『居場所』と、必要とされている『出番』がなく、自暴自棄になって再犯する人は少なくありません」