社会的孤立の実態に詳しい藤森克彦・日本福祉大学教授(みずほリサーチ&テクノロジーズ主席研究員)も言う。
「社会的に孤立している人は、そうでない人と比べて自己肯定感が低く、抑うつ傾向が強いことが指摘されています。貧困に陥っても助けを求める先がないので、一層悪化しがちです」
国立社会保障・人口問題研究所の「2017年生活と支え合いに関する調査」の報告書によると、最も社会的に孤立しやすいのが高齢の単身男性。例えば、会話頻度を見ると、その15%が「2週間に1回以下」だった。現役世代の単身男性も8%と高い。藤森さんは、特に中高年の単身男性を危惧する。
「身寄りのない単身者でも、生活保護を受給すればケースワーカーがつき、判断能力が衰えていれば成年後見人が見守る。65歳以上になれば介護保険もある。しかし、中高年男性は働き盛りとみなされ、公的支援につながりにくく孤立に陥りやすい」
■相談が当たり前でない
藤森さんによると、日本は未婚化や単身世帯化が急速に進む社会だという。一方で、「家族依存型福祉国家」と呼ばれるように、家族が大きな役割を果たしてきた。日本では心情的に「人様に迷惑をかけてはいけない」という文化が根強くて家族以外に頼ることが難しい。そのため、社会的孤立が深刻化しているのではないかという。
容疑者は17年2月と21年5月に大阪市此花区役所に生活保護を相談したが、受給に至らなかった。17年2月に関しては大阪府警が「家賃収入があったため」と説明している。生活保護は、資産があっても収入が一定以下で就労も難しければ受給は可能だが、受給要件は厳しく、厚生労働省の17年の推計では年間約30万人が受給に至っていない。
「容疑者に対して何かできたとすれば、生活保護を相談してきたときでしょう」
前出の浜井さんはそう話す。念頭にあるのが、生活保護には至らないものの、生活に困窮している人を対象にした「生活困窮者自立支援制度」だ。15年に始まった国の制度で、容疑者が17年や21年に生活保護が受給できなかったときにこの制度をうまく利用できていれば、無料で相談支援員に相談し、必要な支援を見つけることもできた。