子どもたちの命を預かる保育士。その責任に比べて給与は低水準だ。行政も対策に乗り出し、処遇改善のためにさまざまな政策を行ってきたが、保育士の賃金が上がらない。労働条件の悪さが、保育の質の低下を招いている。AERA 2022年8月8日号の記事から。
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待機児童問題がクローズアップされた2013年以降、最大で月に約9万3千円もの賃上げ政策が行われたが、保育士の賃金はさほど上がらない。
都内の認可保育園で働く女性(32)は、「収入が増えても、やっと人並みです」と、諦め顔だ。処遇改善手当が月4万円つくようになったが、もとの賃金が低く年収は約360万円に留まる。そのうえ会社の方針で、保育士は最低限の人数しかいないため、長時間、過密労働が強いられる。園長が会社に人員増や賃上げを求めたが、“コストカッター”の社長に一蹴された。
「保育士はやりがいがあるけれど、とても続けられない」(女性)
別の女性(26)は、就職説明会で「大手は安心」と感じ、入社を決めた。都内の認可保育園に配属され、新卒1年目の年収は約290万円、人員不足による負担が重く保育士がすぐ辞めるため、入社3年で「古株」と呼ばれる。現場に余裕はなく、食事介助やオムツ交換は流れ作業。子ども同士のかみつきやひっかき、ケガが絶えず、女性は「もう限界。子どもの命を預かるには条件が見合わない」と2年で退職し、現在はコンビニで働いている。
内閣府の「教育・保育施設等における事故報告集計」によれば、認可保育園で起こった負傷や死亡事故は、15年の344件から21年に1191件へと増加。骨折が最も多く21年は937件、意識不明になる事故が8件、死亡は送迎バス内の置き去りなど2件だった。保育事故に詳しい東京きぼう法律事務所の寺町東子弁護士はこう危惧する。
「重大事故の増加は、保育の質の低下の表れ。保育士の労働条件が他職種に比べて相対的に悪ければ、職員が定着せず、質が低下するのは当然です」