3月19日から予定されていたロシア4連戦が中止になったため、13日のドイツ・オーベルホフ大会で全日程が終了した女子ジャンプW杯。高梨沙羅の総合順位は、初参戦以来の11シーズンでは、自身最低の5位にとどまった。
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それでも1月1日の第9戦でシーズン初勝利を挙げたあと、五輪後には2勝してW杯通算勝利最高記録を63まで伸ばした。そのシーズン勝利数3は、総合2位のニカ・クリジュナルや3位のウルサ・ボガタイ(ともにスロベニア)と同じで、全16戦すべてが8位以内という安定度も彼女の能力の高さを見せる結果だった。
今シーズンの高梨は、昨季の後半から昨年の夏にかけては確実な手ごたえを得るまでになりながらも、W杯序盤は悪条件で波に乗り損ねたことが五輪にも影響した。普通のシーズンならどこかで気持ちを切り替えて表彰台に乗るジャンプをして調子を取り戻せただろうが、北京五輪があるシーズンで焦りも生まれたのだろう。
さらに1月に予定されていた日本4連戦が、新型コロナ感染拡大のために中止になった影響も、1月1日のスロベニア・リュブノ大会で優勝して調子を上げるきっかけをつかんでいた高梨にとっては大きかった。従来なら帰国して気持ちをリラックスさせ、体や技術をもう一度組み立て直す機会を失ってしまったからだ。
それでも北京五輪へ向けては、本人が「迷いはなかった」と話していたように準備は出来ていた。W杯が4週間ない間の1月21、22日には、W杯の格下となるコンチネンタル杯に出場し、他の選手より2~4段低いスタートゲートから飛んで圧勝する成績を残していた。さらに五輪1週間前のW杯は欠場し、じっくり調整して本番に臨もうとした。そして北京五輪でも最初の公式練習では100m超えのジャンプを連発して全体の1位、3位、1位。本人も「道具も含めて自分のジャンプが固まった」と自信を持った。
だが五輪が行われた張家口は、風の強弱や方向が目まぐるしく変わるジャンプ台。毎回飛ぶごとに条件が大きく変わる中で、何が正しいのかわからなくなって迷いが出てしまった。日本代表チームの横川朝治ヘッドコーチは「感覚が繊細なのは彼女の優れた能力だが、今回は少し感じすぎた部分もある」と話す。