AERA3月21日号より
AERA3月21日号より

 ロシア軍がウクライナ侵攻の過程で、核関連施設を次々標的としている。日本にも原発や再処理施設がある。どんなリスクがあるのか専門家に聞いた。AERA2022年3月21日号の記事から。

【写真】ロシア軍の攻撃で火災が発生したウクライナ南東部にある欧州最大級のザポリージャ原発

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 テロ攻撃、あるいは軍事攻撃の場合、対応の最後の砦(とりで)となるのは、特定重大事故等対処施設(特重施設)だ。東電の原発事故後に全原発に義務付けられた施設で、関電も建設を進めており、来年6月までに全基で運用を始める。通常の制御室が破壊された時にバックアップする緊急時制御室、電源、格納容器を冷却する設備などを備え、原子炉建屋からある程度離れた距離に設けられている。

 ただし、「特重施設がその価値を発揮できるのは、テロリストによって原子炉の第3の壁(原子炉圧力容器)と第4の壁(格納容器)が破壊されていないことが大前提」と、原子力情報コンサルタントの佐藤暁さんは指摘している。

 自爆テロも辞さないような集団が原発の周辺防護施設を突破したら、「それから10分で事態は決するだろう」と佐藤さんは言う。原子炉建屋は窓がないので、照明が壊されたら警察や自衛隊も中では迷子になるだけ。侵入したテロリストたちが格納容器に入って重要な配管を破壊すれば、想定されているより桁違いに多い放射性物質が外部に放出されることになるという。

 外務省の報告書も、平常時の原発であれば、適切な安全対策で過酷な事故が発生する可能性は極めて小さいとする一方、「軍事的攻撃の場合には、攻撃する側にある程度の知識さえあれば、相当の確からしさで、その種の苛酷な事態をひきおこしうる」と述べている。

 11年前の東電の事故で、原発の意外な弱点も暴露された。使用済み核燃料プールだ。自衛隊のヘリコプターや、コンクリート圧送車を使ってプールに注水する映像は全世界に流された。

 福島第一のような沸騰水型炉では、核燃料プールは格納容器の外にある。それを覆う建屋の天井のコンクリートの厚さは10センチしかない(3、4号機、原子力規制委の資料による)。マンション床の半分ほどだ。3号機原子炉建屋1階の壁が厚さ1.5メートルもあるのと比べると「極薄」である。

 薄い天井は、電源喪失で生じた水素の爆発で簡単に吹っ飛び、プールはむき出しになった。

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