
質と資金を保証された
岩波ホールはまた、国内外の女性映画人の後押しにも力を入れていた。宮城まり子監督作、岩波の支柱・羽田澄子監督、ピンク映画から初の一般映画を撮った浜野佐知監督、アニエス・ヴァルダ監督、シンシア・スコット監督……。女性を応援する映画の上映も少なくなかった。
岩波の閉館は小規模な配給会社にとっても大打撃だ。
4月16日~6月3日に上映された「メイド・イン・バングラデシュ」を配給したパンドラの代表取締役中野理惠さんは、公開中の「映画はアリスから始まった」は、実は岩波で上映することが決まっていた、と話す。幸い他の映画館での上映が決まったが、配給収入は当初予定の「良くて3分の1程度だろう」と予測する。
配給会社にとって岩波ホールで上映する意味は何か。
「質と資金の両方が保証されました。岩波の鑑識眼に対する信頼は厚い。ここで上映できれば作品の質は保証されたようなもの。安心感があるので、全国の単館系で引き合いがある。また、多くの映画館は、最初の週末でその後の上映日数が決められることが多いのですが、岩波は興行日数が最初から決まっているので、落ち着いて宣伝できるのもありがたかった」(中野さん)
資金面で言えば、企業とエキプ会員に前売り券が売れた。中野さんは「かつては、岩波ホールの職域(企業)での前売り券の販売力がすごかった」と振り返る。故・黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」(03年公開)では、作品を気に入った高野さんが急遽、他作品を払い退けて正月映画にねじ込んでくれた。岩波ホールは配給会社とともに宣伝も行っていたが、
「高野さんから『そんな弱気でどうするんですか。チケットを売りなさい』と叱られました。『うちは共産党にも強いし創価学会にも強い。政党から宗教団体まで、右から左まで強い。あなたたちも売りなさい』と(笑)。映画のためならすべてを尽くす。この時、高野さんの凄さを改めて感じました」