ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いている。キエフ北西部、破壊された橋/2022年3月4日(写真:gettyimages)
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いている。キエフ北西部、破壊された橋/2022年3月4日(写真:gettyimages)
この記事の写真をすべて見る

 緊迫化した情勢が続いているロシアによるウクライナ侵攻。そもそもなぜ、プーチン大統領は戦争に踏み切ったのか。この戦いを理解するうえで、ロシアの歴史的な経緯を読み解く必要がある。元外務省欧亜局長の東郷和彦さんと、外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが語った。AERA 2022年3月28日号から。

【写真】東郷和彦さんと手嶋龍一さん

*  *  *

手嶋:独立国家の主権を武力で踏みにじった「プーチンの戦争」には正義のかけらもありません。だからといって「バイデンの失策」を不問に付しては、ウクライナの戦いの本質を見過ごすことになってしまいます。

東郷:そうですね。今日の事態をどう収めるかという観点からは、ロシアの内在的な論理と歴史的な経緯、バイデンとゼレンスキーの問題点を整理する必要があります。

手嶋:2月中旬には既に19万のロシア軍が対ウクライナ国境に集結していました。バイデン大統領は2月18日の記者会見でロシアのウクライナ侵攻を「プーチンが決断したと確信している」と言い切っています。情報源の秘匿もあって、秘匿されるべきインテリジェンス(諜報)を敢えて公表し、ロシアを牽制しました。しかし「侵攻は確実」と断じながら、安全保障上の対応は取りませんでした。せいぜいがNATO域内への部隊の派遣と経済制裁でした。それも最初はSWIFT排除もエネルギー禁輸も見送ったのです。

 歴代の米大統領はこうした危機に際して「すべての選択肢がテーブルの上にある」と抑止力を効かせてきました。ところが、バイデンは軍事的なオプションは我が机上にないと手の内を明かしてしまった。「プーチンの戦争」が始まり、小児病院や幼稚園まで攻撃されても、基本的な姿勢を変えませんでした。

歴史的な経緯を追う

東郷:ポーランドによるミグ戦闘機の供与も、「第3次世界大戦につながる危険がある」と明確に否定してしまいましたね。

手嶋:私は第3次世界大戦、とりわけ核戦争の危険を冒せと言っているのではない。武力介入の選択肢を否定すれば、プーチンは「怖じ気づいている」と安んじて攻勢にでる危険があると指摘しているのです。超大国アメリカの4軍の最高司令官として、バイデンの責任は非常に重い。歴史の審判に到底耐えられないでしょう。

次のページ