「名人という称号は江戸時代から続くものなので、そういう重みはとても大きいと思いますし、そういった意味では将棋界のトップの象徴といえるところもあるのかな、というふうには思っています」

 藤井自身は記録には関心がない。しかし周囲は藤井に「最年少名人」の期待をかけている。83年、谷川が名人位に就いたとき、わずかに21歳だった。藤井が22年度の第81期A級順位戦で優勝して名人挑戦者になり、23年度の第81期名人戦七番勝負を制して名人になれば、そのとき20歳。空前にして絶後とも思われた谷川の記録を40年ぶりに更新することになる。

 将棋は40枚の駒を使い、9×9=81マスの盤面の上で戦うゲームだ。将棋界において81は吉数であり、81歳まで生きた人は「盤寿」として祝われる。この先迎える81期目の順位戦と名人戦。現代将棋界節目の盤寿の期に、将棋の神様は、できすぎのストーリーを用意しているのだろうか。(ライター・松本博文)

AERA 2022年3月28日号より抜粋

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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