史上最年少五冠を達成したばかりの藤井聡太さんが、順位戦B級1組最終戦に勝利し、A級昇級を決めたことで名人挑戦権を争う立場となった。今年度は強豪と対戦しながら勝率8割台。早くも「最年少名人」の期待がかかる。AERA 2022年3月28日号から。
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改めて順位戦とはなにか? それは戦後の将棋界の根幹をなすシステムだ。同時代にはただ1人の名人位保持者が存在し、その下にピラミッド状に分かれた五つのクラスが置かれる。最上クラスのA級は定員10人。ここに入ることが一流棋士のステータスと見なされてきた。勝ち続ければ、誰でも名人になるチャンスが開かれている。しかし逆に、一定の成績をあげなければ、降級を余儀なくされ、果てには引退に追い込まれる。
藤井聡太(19)は17年度、いちばん下のC級2組に参加した。1期1年の順位戦では、1年に1度しかクラスが上がらない。そしてたとえピラミッド下層のC級2組であっても、過去には名だたる若手棋士が苦戦をしいられてきた。谷川浩司九段(59)や羽生善治九段(51)でさえ1期では抜けられなかったところを、藤井は10勝0敗で突き抜けた。
18年度。藤井はC級1組でも勝ち続け、順位戦18連勝を達成した。これは中原誠十六世名人(74)に並ぶデビュー以来の最長タイ記録だ。しかしその次、近藤誠也現七段(25)に敗れる。最終的には9勝1敗という好成績をあげながら順位下位のため、同成績で順位上位の近藤現七段と師匠・杉本昌隆八段(53)が昇級した。藤井の数少ない挫折体験のひとつだ。
■5期計49勝3敗でA級
19年度C級1組、20年度B級2組を、藤井はいずれも10勝0敗で通過。そして今期B級1組では10勝2敗。5期トータルでは49勝3敗(勝率9割4分2厘)という成績でA級まで達したわけだ。過去に順位戦でこれだけの勝率をあげた棋士はいない。
「藤井さんにとって名人とは?」
そんな質問に、藤井は答えた。