濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」が第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した。同部門での日本映画の受賞は、滝田洋二郎監督の「おくりびと」(2008)以来13年ぶりだ。
同作は、第74回カンヌ国際映画祭でも脚本賞を受賞。日本映画初の快挙として、大きな話題に。濱口監督は1978年、神奈川県生まれ。代表作に「ハッピーアワー」(2015年)、「寝ても覚めても」(18年)。黒沢清監督「スパイの妻<劇場版>」(20年)の脚本も担当している。
なぜ、濱口作品に世界が注目するのか。AERAでは昨年のカンヌ受賞後、濱口監督に単独インタビューを実施。役者の新たな一面を引き出す演出術や海外での評価をどう受け止めているか、本人に話を聞いた。
* * *
「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹の短編が原作だ。主人公は、ある日突然妻を失った俳優で舞台演出家の家福(かふく)(西島秀俊)。孤独と喪失を抱える彼は、演劇祭で訪れた広島で寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)に出会う。2013年に原作を読み「映像化するならこの作品」と思ったと、監督の濱口竜介(42)。
「言葉がぽつぽつと出てくる感じ、というのでしょうか。もともと自分のことを深く話さない2人が、車中という閉鎖空間で少しずつ話し始める。その感じが自分の生活上の感覚とも重なったというか、すごく惹かれるところがあったのだと思います」
村上春樹の短編集『女のいない男たち』から、別の2編の要素を加えて物語を練り上げた。
■自由に演技が発展する
家福が演劇祭で演出する「多言語演劇」というオリジナル要素も興味深い。それぞれのキャストが母国語で演じ、日本語、北京語、韓国語、手話も含めた九つの言語が入り交じる。
「現場の通訳さんは大変だったと思いますが、『多言語演劇』は実は非常にシンプルに『演じる』ことができる方法だと感じています。演劇では次のセリフが決まっているので、そのセリフがどの音にあたるかが理解できればやりとりが成り立つ。しかも相手の言葉がダイレクトに理解できないことで、演技の手がかりが相手の身体や声、身体反応にフォーカスされていく。それによって、演技ではなく『その場でより相互作用が起きているように見える』のでは、と」