それにしてもなぜここまで海外で受け入れられたのか。私は外国映画を観ていて「私たち日本人は向こうの人たちが思っていることと、実は別のことを感じているのではないか?」と思うときがあるんです。言葉や生活感の違いで、描かれていることの解釈のしかたが違ってきてしまうのではないか。彼らが思っているよりも良く解釈しすぎているんじゃないか──と不安になる。そうした「違い」みたいなものが、この映画ではいい意味で逆に海外の人に作用したのではないか、とも思う。例えば西島秀俊さん。寡黙な存在感が本当に素敵だったけど、外国の人はあの寡黙を私たちとは別の感覚で、より深く解釈したのかもしれない。彼の心の動きをさまざまに想像し、自分たちでそれぞれに解釈して、受け取ったのではないかなと。
アメリカの世情も関係していると思います。今年のアカデミー賞作品賞ノミネートは「コーダ あいのうた」や「ベルファスト」など家族のあたたかみのようなものを感じさせる映画が多い。やっぱりみんな日々「コロナがうっとうしい!」と思っていて、でも何もできないもどかしさを感じている。やはりいまは「非常時」なんです。そんな時代に難しくてトゲのある映画は嫌だなと多くの人が思っていた。そこにふわっと風を感じさせるような、この映画が現れた。その波に乗れて、風に乗れた。この映画は時代に求められていたのだと思います。
(取材・構成/中村千晶)
※週刊朝日 2022年4月8日号