
「映画を作る者はある意味、両性具有的であり、ジェンダーを超えた存在であることが必要だ」と。
映画には緑と赤を象徴的に使いました。最初はモノクロの予定だったんです。でもリサーチするうちに当時の社会にはさまざまな色があったことがわかった。灰色の現実からの逃避という面もあったと思います。いまウクライナ戦争の写真で破壊された建物の一部にピンクなどの明るい色が見えるとハッとさせられます。その色は「私たちはまた普段の生活を取り戻す」という希望の象徴にも見えます。

2月24日を境に私の人生は真っ二つに引き裂かれました。不穏な兆候は感じていましたが、実際に町に「Z」の文字が書かれ、知り合いがウクライナに侵攻している事実が理解できなかったのです。「もうロシアにはいられない」と国を出ました。私にとって映画とは希望であり、奇跡です。そしてそれはいま誰もが是が非でも手に入れたいものではないでしょうか。

(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年8月1日号

