86年、ニューヨークに留学していた友人を頼って、逃げるようにアメリカに渡った。
「ところが、友だちはすぐボストンに転校してしまい、ニューヨークにたった1人みたいな状況になっちゃった。そこで生まれて初めて、積極的に写真に取り組んだ」
帰国後、ニューヨークで撮影した写真を手に伊島さんの元を訪ね、アシスタントとなる。
「斬新なポートレートを撮っていた伊島さんは写真の処理に徹底的にこだわる人で、24時間、写真と格闘している感じでした。逆にぼくは現像や引伸しに凝るんじゃなくて、現場で何とかしようと思った。それが、『MOTOR DRIVE』につながった。特に現場のハードさとモノクロ表現が一致した」
■スナップ写真を撮るのをやめた理由
ポートレート写真には人物と対峙する難しさがある。
「こうしてくださいって指示を出すと、その人らしさが消えてしまう。相手の自発性が発揮される環境をどうつくるか。言葉をかけることもあるけれど、それはあくまでもきっかけ。話さなくてすむなら話さなくていいんです。撮影は、みんなでつくり上げる音楽のセッションみたいなもの。即興の演奏中に、次に弾くキーを言葉で叫ぶなんて、やっちゃいけないでしょ(笑)。アイコンタクト程度で、いかに次にボーンといけるか。やっぱり、そこが面白いわけです」
シャッターの音、リズム、撮影者の動き。すべてが、相手の気持ちをアップさせ、表情を引き出す要因になる。
そんな挑戦の場を、平間写真館に移してから7年になる。
「写真館は自分にとって、まさに現在進行形の活動の場なんです」
実は20数年前、能面のような表情だった平間さんが笑顔を見せた瞬間があった。「趣味で」撮り始めたスナップ写真について、「仕事を離れて素直な気持ちでシャッターが切れるのがいい」と、ほほえんだ。
ところが、「写真館を始めた途端、スナップ写真とか、日常をいっさい撮らなくなった」と言う。
「写真へのすべてのエネルギーを写真館に集中するようになった。だから、撮れなくなった。それでいいのか、という気持ちもちょっとはあったんですけれど、いまは、自分のテーマと写真館が完全に一致している。もう迷いはないです」
いつから、そう思えるようになったのか?
「この図録の色校正が出て、見た瞬間です」。つい、最近のことである。