ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会で演説をした。各国で人々の心を打つ言葉を紡ぎ出してきた。なぜ感動を呼ぶのか。AERA2022年4月4日号の記事を紹介する。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶
* * *
ゼレンスキー演説が終わったとき、「あれ、自分は何を期待していたんだろう」と思ってしまった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、世界各国の議会に向けて、対ロシアの戦いへの支援を呼びかけてきた。どこの国に対しても、その国の国民の琴線に触れるような題材を選び、その国の国民がみんな知っているフレーズを引用して共感を集めてきた。その手法は見事なものだった。
では、日本の国民に対しては何を語りかけるのか。演説の前からテレビのワイドショーやニュースでは、この話でもちきりだった。
ウクライナへの空爆をヒロシマ、ナガサキになぞらえるのではないか。
ロシアによって不法占拠されている北方領土に言及して、ウクライナの人たちへの共感を掻き立てるのではないか。
福島の原発事故について触れることで、ロシア軍の原発への攻撃の非人道性を批判するのではないか。
こんな予測がしきりに話題になっていた。私も内心、こうしたテーマが登場することを予測、いや期待していたように思う。そうした話が明示的に出てこなかったので、冒頭のような感想を持ってしまったのだ。
■正しい側をアピール
そこで気づいたこと。それは大統領の各国向けの演説がどれも素晴らしかったので、つい日本向けにも華麗なレトリックが展開されることを期待してしまっていたのではなかったかということだった。
自国が悲惨な状態に陥っているときに、レトリックで人々の心を動かすことができるはずはない。彼の言葉が感動的なのは、レトリックの力ではなかったのだ。
とはいえ、これまでの各国向けの演説には感心させられてきた。とりわけイギリスに対しての演説だ。
「我々は最後まで戦う。海で、空で、地上で、森で、街で」
これは第2次世界大戦中、フランスに支援に入ったイギリス軍がドイツ軍によって大きな被害を出し、フランスの海岸ダンケルクからイギリスに撤退せざるをえなかったときにチャーチルが演説した言葉を模していた。議場では涙を浮かべる議員もいた。