林:ああ、歌舞伎と同じですね。
松岡:シェイクスピアから見たって、地域はデンマークだし、何世紀も昔の話でしょ。遠い物語を、16~17世紀のロンドンに持ってくる水路をつけ、その水路がさらに21世紀の今につながるんだと思う。それが私が出した結論なの。間違ってるかもしれないんだけど。
林:すごい。前に高村薫さんが『新リア王』という小説を書かれましたが、現代に通じる水路がちゃんとあったんですね。
松岡:だと思う。「リア王」は相続問題とか、ボケちゃった親父を子どもたちがどう扱うかという問題もあるしね。古代ブリテンの話だけど、16~17世紀当時のイギリス人の問題が満載なんです。その堰をはずせば現代に流れてくる。
林:なるほど。『シェイクスピア全集』の33巻、ちゃんと読み直します。そして私も「水路」がつくれるような作家になれるよう頑張りたいと思います。今日はすごくいいお話を伺いました。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
松岡和子(まつおか・かずこ)/1942年、旧満州・新京(現在の中国・長春)生まれ。東京女子大学英文科卒業、東京大学大学院修士課程修了。翻訳家・演劇評論家として活動する傍ら、東京医科歯科大学教養部の英語教授を務める。97年、シェイクスピアの翻訳に専念するため退任。2021年、シェイクスピア戯曲全作の翻訳を完成させ、日本翻訳文化賞、菊池寛賞、毎日出版文化賞(企画部門)、朝日賞を受賞。著書に『深読みシェイクスピア』。訳書は『クラウド9』『ガラスの動物園』など。
※週刊朝日 2022年4月8日号