米疾病対策センター(CDC)のホームページでの解説でも、21年5月に主な感染経路の筆頭に「感染するウイルスを含んだ非常に小さな飛沫やエアロゾル粒子を運んでくる空気を吸うこと」と公表していた。
こうした世界の動向を踏まえ、国内でも感染研の態度に疑問を呈する声が上がっていた。22年2月には、東北大の本堂毅准教授ら国内の感染症や物理学などの専門家8人が「世界的なコンセンサスが得られている考え方と一致しない」として、感染研に対し公開質問状を出す事態になっていた。
「空気感染」を明記しなかったことで、どういった弊害が生じるのか。長崎大の森内浩幸教授は「飛沫感染と接触感染の対策で十分とミスリードした可能性はある」と見る。
例えば、飛沫感染の対策として挙げられるのが、飲食店のパーテーションやマスクだ。接触感染の対策では、手指やテーブルの消毒などが挙げられる。空気感染には換気が重要だが、森内教授は「軽視することにつながった可能性は否めない」と指摘する。
「飛沫感染と接触感染という言葉だけでは、『パーテーションを設置して、消毒をしているから対策は大丈夫』と思えてしまう。しかし、主な感染経路が空気感染となれば、換気も絶対にやらないといけない話になります。換気がしづらい飲食店ではいまだに十分な換気の対策が取られていないところはある。本来であれば、国が補助金をつけて換気対策を後押ししなければならない。感染研の不十分な説明が、対策の不徹底につながった可能性はあります」
しかし、いま米国ではさらに踏み込んだ意見が出てきており、注目を集めている。ホワイトハウス科学技術政策局長で大統領副補佐官のアロンドラ・ネルソン氏がホワイトハウスのホームページに22年3月23日に投稿した記事だ。
記事冒頭で「新型コロナが人から人へ感染する最も一般的な経路は、感染者がいた後、数分または数時間もの間、室内の空気に漂っているウイルスを含んだ小さな粒子です」と断言した。ホワイトハウスが「空気感染が最も一般的な経路」という認識を示したのは、初めてと言われている。福岡市の病院に勤務する感染制御医の向野賢治医師はこう説明する。