延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は村上春樹さんが語った反戦歌について。

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 ピーター・ポール&マリーの「悲惨な戦争」の歌詞を村上春樹さんが朗読した。収録の際に春樹さんの声が微かに震え、その揺らぎに涙を浮かべる女性スタッフがいた。

「村上RADIO特別版~戦争をやめさせるための音楽~」は3月18日にオンエア、朝・毎・読・NHKなどが報じ、AP通信は“Murakami plays antiwar songs on radio to protest Ukraine war”と世界に打電した。

「人の命や愛や尊厳を大切に護るという歌だって反戦歌。そういうものを流したい」と春樹さんから伝えられた。本来なら「村上RADIO」は毎月最終日曜。でもウクライナでは無差別攻撃で犠牲者が増え続けていた。村上文学はウクライナにも読者がいる。一刻も早く放送しなければと、特別枠、CM抜きの放送が決まった。

「今日は『戦争をやめさせるための音楽』というテーマでお送りしたいと思います」と春樹さんがマイクに向かった。「音楽に戦争をやめさせるだけの力があるのか? 残念ながら音楽にはそんな力はないと思います。でも聴く人に『戦争をやめさせなくちゃいけない』という気持ちを起こさせる力はあります」

 1曲目、ジェームス・テイラーの「ネヴァー・ダイ・ヤング」をかけながら、「年寄りが勝手に始めた戦争で若い人たちが命を落としていく。本当に悲しむべきことです」

 番組では曲のバックグラウンドやライブ会場の様子も紹介した。「俺達が育った60年代、毎晩のようにテレビで戦争を見て育った。友人たちも戦争に巻き込まれていった。ここにいる若い人たちみんなにこの歌を聴いてもらいたい。とりわけ10代の人たちにね」とブルース・スプリングスティーンは聴衆に話した。彼はエドウィン・スターの「WAR(黒い戦争)」を歌った。ブルースは春樹さんとほぼ同じ年。そしてもうひとり、スティーヴィー・ワンダーも。「彼は15歳の時にこの曲をカバーしています」と曲紹介したのがディランの「風に吹かれて」だった。「60年代は公民権運動とかヴェトナム戦争があったけど、それからも世界のトラブルは途絶えることがなく、この曲はどの時代も輝きを失わなかった、というようなことを(スティーヴィーは)述べています」と村上DJがリスナーに語りかける。

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