第一段階では歴史の先例を頭の中に入れます。そして第二段階で平常心に戻って、思い込みから心を解き放つのです。その上、次の第三段階で一瞥してひらめきを待つ。最後はその直観を実行する意志の力を持ちます。このように、戦略的直観には、平常心が重要な役割を果たしています。
しかし、私は思います。この時の平常心とは、どっしり構えて、普段通りに平静であることではないのではないか。むしろ、江戸時代の名僧、沢庵和尚が語った「不動智」のようなものではないか。不動智は剣術における禅の心を説いたときに出てきます。そのとき心は一点に留まりません。四方八方、左右、どこにも置かれないがゆえに、どこにもあるのです。
攻めの養生では、心が留まっていてはダメです。怒り、悲しみ、落ち込み、不安などネガティブな感情を一転してプラスに持っていくのが、攻めの養生なのです。そこには生命の躍動があります。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年4月15日号