現実に起きていることを180度ひっくり返したような状況認識を聞いて、筆者は頭がクラクラするような感覚に襲われた。
ウクライナを奪おうと虎視眈々(たんたん)とチャンスをうかがっていたのはロシアではないのか。ウクライナの方こそ、ロシアから常に脅威を受ける中では、安全を感じることも、存在することもできないのではないのか。
常識ではかり知れないプーチン氏の主張は、ウクライナ侵攻を正当化するために無理やりひねり出したものだという見方もできるかもしれない。しかし筆者には、プーチン氏が本気でそう信じているように感じられるのだ。
実は、プーチン氏は昨年12月の記者会見でも、陰謀論と言えるような特異な世界観を延々と披露している。
「1991年、我々は自分たちの手で(ソ連を)12分割した。しかし、西側の国々にとってはそれでも不十分らしい。ロシアが大きすぎるのだ。欧州の国々にはせいぜい6~8千万しか住んでいないのに、ソ連崩壊後のロシアには1億4600万人が住んでおり、それでは多すぎるのだ。ロシアが常に圧力を受けている理由は、それでしか説明がつかないように私には思える」
プーチン氏は、ロシア革命直後の1918年に、当時の米国高官が語ったという主張を引用した。
「巨大なロシアが、シベリア部分と、さらに欧州部の4国家に置き換われば、世界はより安心だ」
プーチン氏は、それから100年以上たった今も欧米が「大きすぎる」ロシアの分割を画策していると信じているようなのだ。
だが、本当に欧米がそんなことを画策しているとは常識的に考えられない。ロシアは、プーチン氏が常々強調するように、米国に次ぐ世界2位の核大国だ。国連安全保障理事会の常任理事国でもある。軍事的にも政治的にもロシアを解体することなど夢物語ではないのか。
ところが、プーチン氏の考えは違うようだ。
「我々に敵対する者たちが何世紀もの間、言ってきたことがある。『ロシアに打ち勝つことはできない。できるのは、内部から崩すことだけだ』。これは、第1次大戦後やソ連崩壊の際に起きたことだ。誰が手を下したのか? 外国の利益に奉仕する者たちだ」