プーチン大統領は何を考えているのだろうか。ウクライナ侵攻を正当化するために荒唐無稽な口実を無理やりひねりだしているようにも見えるが、はたして本当にそうなのか。『プーチンの実像』(朝日文庫)の著者の一人である朝日新聞論説委員・駒木明義氏は、プーチン大統領を直接知る多くの人物を取材し、重要な証言を引き出してきた。駒木氏がプーチン氏のこれまでの発言をひもとくと、彼が取りつかれている特異な世界観が浮かび上がってきたという。
【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶
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一方的な加害者――ウクライナの領土と主権を平然と踏みにじるプーチン大統領を説明するのに、これほどふさわしい表現はないだろう。だが、プーチン氏の言葉からは、状況をまったく逆にとらえていることがうかがえる。おそらく、彼の頭の中では「自分こそ被害者」なのだ。
プーチン氏の異様ともいえる被害者意識や猜疑心は、ウクライナへ侵攻開始を宣言した2月24日のビデオ演説の全編にみなぎっている。以下、詳しく見てみよう。
プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)にウクライナなどを加盟させるな、という要求が米国に拒否されたことを延々と批判した上で、問題を提起した。
「では、今後何をするべきだろうか?」
ここでプーチン氏は突然、話を1940~41年にタイムスリップさせる。当時のソ連が、ナチスドイツの侵攻に対する準備が十分できていなかったために「最初の数カ月の戦闘で、戦略的に重要な広大な領土と数百万の人々を失った」と強調した上で、こう誓ったのだ。
「我々は2度と同じ過ちを繰り返さない」
どうやらプーチン氏の目には、現在の世界情勢がナチスドイツによるソ連侵略前夜と重なって見えているらしい。ロシアが侵略の脅威に直面しているのだ、と。
プーチン氏はその上で以下のように結論づけた。
「情勢の推移と、もたらされる情報の分析は、ロシアとこうした勢力(欧米やウクライナ)の衝突が避けられないことを示している。それは時間の問題だ。彼らは準備を整え、チャンスをうかがっている」
「ロシアは、今のウクライナから絶え間なくもたらされる脅威を受けて、安全だと感じることも、発展することも、存在することもできない」