そのメンバーとして、現代社会のさまざまな表情をモチーフに活動してきたエリイが、ここ数年取り組んでいるテーマのひとつが出産。今年1月に出版された著書『はい、こんにちは─Chim↑Pomエリイの生活と意見─』(新潮社)には、「曖昧な輪郭として死に触れていたが、完全なる死を産んだ」(エリイ)と考えたという死生観や、妊娠中だけでなく出産後も必ず聞かれる「男の子? 女の子?」なる質問の不思議、子連れに優しくない社会インフラへの提言まで、アーティスト母ならではの視点で現代社会が切り取られている。
今回、撮影をおこなったのは、取り壊されるビルのフロアを重ねた巨大彫刻作品「ビルバーガー」の展示のところ。エリイが我が子を抱えてカメラの前に立った瞬間、鋭いとげのようなChim↑Pomの現代美術作品が、柔らかい光で包まれたような気がした。
彼らがこの先も切り取っていくだろう未来の社会には、がれきや原発事故に代わって、エリイの赤ちゃんのような存在がたくさん待っていますように。(ライター・福光恵)
※AERA 2022年4月18日号