一方で、この点を重く見た全日本柔道連盟は「全国小学生学年別大会」を22年度から廃止した。団体戦の大会は残したものの、この動きに中学や高校が追随できれば、過度な勝利至上主義の抑止力になり「システムエラー」が解消されるはずだ。欧米にならって地域ごとのリーグ戦を活動のメインにし、週ごとで出てきた課題に取り組みつつ、チームの底上げができる。

 また、新たに期待が寄せられているのが、部活の地域移行だ。全国の公立中学校を対象に23年度から25年度にかけて、休日の運動部活動を民間クラブや総合型地域スポーツクラブなどに段階的に移行させるものだ。クラブのコーチらスポーツの専門家に任せるのだから暴力指導はなくなるだろうという見方がある。だが、そこに異を唱えるのは、500人の会員が所属する一般社団法人あきる野総合スポーツクラブ(東京都あきる野市)の理事長を務める高岸祐幸さんだ。

「クラブ数は圧倒的に足りないので、少年スポーツに携わる人が一定数中学生も任されることになると予想しています。ところが例えばサッカーもミニバスも怒鳴っている指導者が多い。そのやり方では思春期の中学生は動きません。対等な立場で自発性を引き出すようなスキルアップが必要でしょう」

 有識者会議で学校部活動の地域移行を検討してきた日本大学文理学部の末冨芳(かおり)教授は、生徒が活動を楽しめる適切な環境づくりと指導力、その両方の醸成を期待する。

「保護者が全国大会に連れていってくれる、勝たせてくれるといったベクトルに進まないようにすることと、指導者に専門資格を取得してもらうことなどが移行の前提になると思います」

 地域移行の成功も、指導環境の改善も、ヒューマンエラーとシステムエラーを同時修復できるかにかかっていると筆者は考える。パワハラ被害者なのに「私が弱い」と自責した元部員のような生徒を救わなければならない。険しい道だが、指導者のキャリアを守ることにもなる。(スポーツライター・島沢優子)

AERA 2022年8月1日号より抜粋

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