今年4月、強豪の秀岳館高校サッカー部のコーチの暴行問題が騒動となった。健全な心身を育成するはずの学校の部活動で、指導者による暴力や暴言がいまも残っている。なぜ暴力はなくならないのか。AERA 2022年8月1日号の記事から。(前後編の後編)
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秀岳館高校に中学生を数人送り出した関西在住の指導者の男性は「(事件発覚後も)誰も辞めておらず、3年間我慢すると思う。指導環境が少しでも良くなってくれと祈るしかない」と複雑な気持ちを吐露する。これらの事例からも、私立高校の指導環境の改善を申し出るのは、公立高校に比べハードルが高そうだ。であれば、私立校の関係者に対し、さらなる指導環境の改善を求めていくことが必要だろう。
例えば秀岳館高校サッカー部の部員数は約200人だが、本年度入部した1年生は約120人。2、3年生はそれぞれ40~50人ほどなので、1学年あたりの人数が3倍近くに増えている。事件後に退職した監督の印象について、前出の関西在住の指導者の男性は「サッカー部顧問というより、生徒確保に奔走するビジネスマンのようだった」と話す。サッカー、野球、ラグビーといった高校スポーツで部員が200人や100人を超える部が珍しくない現状をみるにつけ、部活の役目は学校の名をあげる「広告塔」から「定員確保要員」へと変わっているようだ。
その背景には私立高校の授業料実質無償化もありそうだ。保護者の収入によるとはいえ、私立高に通う高校生に対し、国からの高等学校等就学支援金の上限は2020年度から39万6千円に引き上げられた。これまでは家計を考え「受験を頑張って公立に」と願っていた親たちも、「好きなスポーツを全国レベルの学校でやらせたい」と変化している。学校側としても、全国大会に出続けるなど好成績をあげることは、少子化という荒波のなか学校経営を安定させる有効な手法のひとつと言えそうだ。
■従来の手法は不完全燃焼、生徒の満足度を上げる
そこで、大阪市天王寺区にある私立興國高校を訪ねた。定員2400人の男子校。看板部活のサッカー部は部員数325人だ。部を八つのチームで編成し、監督以下コーチは20人をあてがう。全国高校選手権出場は19年度の1度だけだが、20年度までの10年間で日本代表の古橋亨梧(27)を始め、Jリーガーを24人誕生させた。部活は全部で39。昨夏の甲子園大阪府予選で決勝進出を果たした野球部のほか、全国レベルの部がひしめくスポーツ強豪校だ。
「全国に行けばいいという経営スタイルは限界がきています」
そう話すのは、同校で理事長と校長を兼務する草島葉子さんだ。