(c)HBO Max _ James Lisle
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◆生きのいい優秀な素材でありたい

「作品を料理に例えると、その中には主菜もあれば、副菜も、酒のつまみもデザートもある。自分としては、そのどこに回されても、ちゃんと役割を全うしたい。しかもできるだけ生きのいい、優秀な素材でいたいという思いがあります」

 あやかりたくなるような風格の持ち主なのに、発する言葉は謙虚。そんな謙さんが、それでもこの2年で、声を大にして主張したいことがあった。それは、「エンタメは不要不急なものではない」ということだ。

「最初の緊急事態宣言が発令されたとき、出演していた舞台が上演できなくなり、音楽や演劇は不要不急のレッテルを貼られました。でも、考えてもみてほしい。芝居や音楽の一切なくなった人生が、どれだけ味気ないかを。一昨年の春、家でやることがなくて途方に暮れながら、もう『エンタメは不要不急』なんて言われないように、俳優ももっと発信していかなければ、と思いました」

 コンスタントに舞台の仕事を続けているのは、観客に直接バイブレーションを届けたいからだ。それはまさに至福と呼べる時間で、観客の波動によって、自分自身も揺さぶられるのだという。

「映像のときは、客席からの波動はないけれど、共演者とノーガードで打ち合うような感覚があります。俳優は、いったん芝居という土俵に上がったら、横綱だろうが、幕内だろうが関係ない。キャリアも年齢も関係なく、ただ対等にぶつかり合わないと芝居が成立しないんです。だから、僕がどれだけ年を重ねて、先輩的な立場になっても、若い人に、『どうだ!』と胸を貸しているつもりは一切なくて。いくつになっても、どこにいても、相手と本気の感情をぶつけ合えるのが俳優の醍醐味なんだと思う。そこには一切の妥協も嘘も許されない。『大したことねぇな』と思われちゃったら、その波動もちゃんと伝わってくるしね(笑)」

(菊地陽子 構成/長沢明)

渡辺謙(わたなべ・けん)/1959年生まれ。新潟県出身。87年の大河ドラマ「独眼竜政宗」で一躍トップ俳優に。2003年公開の映画「ラスト サムライ」以降、「バットマン ビギンズ」「硫黄島からの手紙」「インセプション」、「トランスフォーマー」シリーズなど、海外作品にも次々と出演。06年「明日の記憶」では製作総指揮も務めた。15年には、主演ミュージカル「王様と私」でブロードウェーデビューも果たした。

ハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」
WOWOWにて毎週日曜午後10時より独占放送中
WOWOWオンデマンドにて配信中

出演:アンセル・エルゴート、渡辺謙、菊地凛子 伊藤英明、笠松将、山下智久
監督:マイケル・マン(第1話) ほか
番組公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/tokyovice/ 


週刊朝日  2022年4月29日号