「マイアミ・バイス」などで知られる巨匠マイケル・マン監督が、全編オール日本ロケを敢行したドラマ「TOKYO VICE」。この大作に、渡辺謙さんが出演している。
【前編/渡辺謙がハリウッドの巨匠に感激「いてもたってもいられなくなった」】より続く
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ハリウッドにブロードウェー。エンターテインメントに携わる人間なら誰もが憧れる場所で、オファーのある数少ない日本人俳優だが、「自分の仕事が大きくなっている感覚はない」と言う。
「俳優というのは、作品が変わると、自分の実績なんてものは簡単にリセットされてしまう。だから常にワンステップ、ワンステップしか進めないものなんです。新しい役に出会うことは、それまでとは別のステップに行っているというだけで、俳優としてステージが上がったとか、仕事の幅が拡大したとかいう感覚ではない。ものすごく踏ん張らなければならない作品もあれば、ものすごく穏やかでフラットなステップを踏める作品もある。僕の場合、芝居と対峙することは、若い頃から、自分で抱えきれない大きな何かを背負わされることでもあった。『この器を満たしなさい!』と手渡された器に、自分が持っている精いっぱいのものを注ぎ込んで、それを満たしたら、『はい次!』みたいな。そんな感覚でずっときたので、結構アップアップでした」
表舞台に立っている姿は優雅だが、求められるイメージに近づくためには、凡人には計り知れない努力の積み重ねがある。そこまでして、俳優業に邁進するモチベーションについて聞くと、「だって、やらなきゃ終わらないから」とサラリと答えた。
「もちろん、そこからドロップオフすることもできなくはなかったと思う。でも、俳優を続けていると、やりたいことが次から次に……ってほどではなくても、割とポンポンと与えられて。『あ、じゃあやってみようか』なんてことを繰り返しているうちに、40年が過ぎちゃった(笑)。海外で仕事をするようになって、さらにミュージカルなんてやるようになってしまうと、『今度はこれをやってみない?』と言われるプロジェクトが、若い頃には全くイメージしたこともないスケールだったりして。俳優をやっていると、自分が思ってもいない世界に連れていってもらえることがわかってからは、自分から何かを望んだり、未来をイメージしたりするのはやめました。自分から欲しいものを取りにいくより、人に面白がってもらうほうが、自分自身も楽しいことに気づいたから」
作品にインパクトを残したいというよりは、「自分は一つの素材でいい」という思いは、若い頃からあった。